表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

567/592

8-10「密談は小型竜《ワイバーン》と共に」(6P)




「……ああ、鱗が膨らんでいる。鱗回蚤(りんかいちゅう)が居るな。針を貸してくれ」

「うわ~……派手に膨らんでる。こりゃ痒いでしょう、こいつも」




 翼の付け根。ぼっこりと膨れ上がった鱗見つけ、めくりあげ露わになった患部に声を上げた。


 真っ赤に腫れあがり傷になっているそこで、親指の爪ほどの大きさの虫が蠢いている様子に、二人そろって眉根を寄せた。

 


 鱗回蚤(りんかいちゅう)

 主にドラゴンやワイバーンなど、大型の爬虫類に寄生しており、見つけ次第処置が必要な害虫だ。エルヴィスは慣れた手つきで針を構え、患部に一刺しして駆除する。



 小型竜(ワイバーン)の飼育を教養として叩き込まれている貴族にとっては、これぐらい出来なければ資格がないといえるだろう。




 『ギュオオオ、』と声を上げる小型竜(ワイバーン)のために、薬瓶の布を絞るエルヴィスの後ろから。毒を抜くように布を押し当てながら、今度はヘンリーが、途切れた話を繋ぐように、口を開いた。





「──で。例の事件ですけど。ベルマンがやってるんですよね?」

「ああ。被害者の女性の身辺を徹底的に洗っているようだが、どちらも遊びが盛んだったことぐらいしか掴めていないらしい。男女間の関係性が冷え込んでいる社会問題が嘘みたいだな」




 やや疲れた声で答えた。

 そして同時に思うのだ。

 この場所を選んでよかったと。


 会話が竜の喉音に消されているのが心地いい。

 ヘンリーが少し騒ごうが、大げさに振舞おうが、全て竜と喉鳴(のどな)りが守ってくれる。


 そんな安心感を実感するエルヴィスの横、ヘンリーは患部を拭いた布の面を変えながら言う。




「二極化してるってことじゃないですか~? 『求めるヤツには寄ってくるが~、求めないヤツには与えられない』、至極当然のことが『当然』になっただけだと思いますがね」

「……求めていないが寄ってくる場合は? 鬱陶しくて溜まらないが」


「はっは~。兄上と同じこと言ってますよ。爵位持ち・土地持ちの長男ってぇのはどうも、愛を愛だと信じきれないタチにあるみたいですねぇ」

「………………」



 肩をすくめ腕を広げ、おちゃらけて皮肉るヘンリーに、うんざりを込めた沈黙を返した。



 確かにそうだ。

 欲に染まった女どもの『お慕いしております』ほど、汚らしい言葉はないし、それを目論む父親家族どもの面ほど醜悪なものはない。




 愛だの恋だの、人は簡単に口にするが。

 金と立場に群がる蛆虫(あんなもの)に晒され続け、それでもなお、見えぬ『愛』などを信じられるほうがおかしいと感じてしまう。



(──庶民に生れ落ちていれば、話は違うのだろうか)と一瞬ちらつくが、それを即座に横に流して、エルヴィスはいつも通り呆れた視線を彼に返すのである。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ