8-10「密談は小型竜《ワイバーン》と共に」(4P)
まるで女に振られた時のようにがっつりと凹むヘンリーに、エルヴィスはさらに首を捻った。
ヘンリーのことはそれなりにわかったつもりでいたが、あの気色悪い笑みの真意がわからない。
(……なんだ?)ともう一度眉を寄せるが──瞬時。
(ああ、そうだそこじゃない)と気持ちを切り替え気を正す。
竜舎へは、密会を偽装するために来たのだ。ヘンリーのよくわからない微笑みに付き合っている場合ではないのである。
それを思い出して、一瞥。
エルヴィスは素早く視線を巡らせ、飼育員の目がないことを確認すると、
「──先ほどの会議の件だが」
「あ~、小耳に挟みましたよ。ロフマンのじじい、オリオン領の女性死亡事件について噛みついてきたらしいじゃないですか」
振った話に言葉が返ってくる。
そこが主題ではないが、とりあえずワンクッションだ。
「──ああ。想像通りだ。覚悟はしていた。俺の失態だ」
「そうですかぁ!? ドミニク殿と同じ意見になりますが、そんなの閣下がどうこうできる話じゃないでしょう!」
隣で、布巾を片手に鱗を拭くヘンリーは感情的だ。
心底(声がかき消される場所を選んでよかった)と呟くエルヴィスの安堵を裏付けるように、彼は小型竜の腹部に文句を言う。




