8-10「密談は小型竜《ワイバーン》と共に」(3P)
素早く記憶に蘇るのは、先ほど。
『どうせ人生一度きりだ!』と口走ってしまった後、受け入れるような独り言。
儚くも寂し気な空気。
何かに悩んでいるような、諦めているような、しかし求めているような、そんな雰囲気だった。
あんなもの、今まで二十数年間一度たりとも見たことがない。何度声をかけても反応がないのも珍しい。
『微細な、しかし明らかな盟主の変化』に、ヘンリーの中。沸き起こったのは、興味と些細な対抗心だった。
(……もしかして、堅物で朴念仁の閣下に変化の兆しが……!? ミリアって娘が『笑うほう』つってたんだから、ボクだって!)
彼女が何をしたのかはわからないし未だにそれらは演技だと疑っていないが、しかし! 幼少のころからエルヴィスと付き合いのある彼には彼の意地がある。
ヘンリーはぐるんと顔を向け、小型竜の世話用品を片手に盟主の方に向き直り、──いざ!
「────────閣下!」
「なんだ」
にっか────☆彡
すまぁぁぁぁいる☆彡
「………………」
──途端。
温度を無くす盟主の表情。
藍よりも暗い瞳に宿る氷の刃。
ひゅううおおおおおう……
吹きすさぶ風。
冷える心。
そんな、沈黙に、耐え切れず。
息も絶え絶えな声を絞り出したのは、心に重い致命傷を浴びたヘンリーだった。
「……顔、かおが……ボク、人の表情が死にゆく様を始めて見ました……」
「気味が悪い。なんだ、何を企んでいる? ……わかった、大方、女性を口説くのに付き合えなどと言うつもりだろう? 前にも言ったがそんな下らんことに時間を捨てる気はさらさら無い」
「違います違います、違いますってぇ! すいませんでしたボクがちょっと見当違いだっただけです! すいません閣下ッ!」
「──……?」
慌てて謝りはしたが、エルヴィスの異物を見るような眼は変わらない。心底訝し気な瞳でこちらを見入ると、腕を組んで彼は聞いてくるのだ。
「なんだ。いまいち理解に欠けるな……、何がしたかったんだ、お前は」
「……す、すみません……、忘れてください……」
「……?」
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