8-9「本業なのは解っちゃいるが、出たくないったら出たくない。会議なんて億劫だ」(8P)
「…………ボク、胸と尻が大きくて、顔は女神みたいで、奥ゆかしい子がいいです。あそこのお嬢さんはちょっと。胸と尻が足りな」
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
「こっ! 好みのタイプぐらいあるでしょう? 兄上はどうか知らんですが、ボクはほらぁ、次男ですし! 土地も爵位もないですし!? むしろハードモードですし! 好みの女性と結婚したいじゃないですか! どうせ人生一度きりなんですから夢見たっていいじゃないですか!」
「…………人生、一度きり…………か」
言い訳のように早口で捲し立てるヘンリーに、一転。
エルヴィスは目線を下に、ぼんやりと呟いていた。
確かにそうだ。
人生は一度きりだ。
人は死後、御霊となって女神の元に戻るのだ。
無感の存在に還るだけ。
(──そんな中で……人生の伴侶を自分で選びたいと思うのは特段おかしなことでもない……よな)
──「──閣下?」
心の奥底。
ほのかに芽生えた淡い欲。
それは、彼の中で暖かく芽吹き、ほんの少しの痛みを残す。
(……盟主の家に生まれた以上、婚姻も人生も国のためだと思ってきた。……それは今も変わらないが、しかし……)
──「……閣下?」
求めてもいいのではないか?
ゆらり、ゆらりと揺れる中。
記憶の中のミリアが云う。
『ノースブルクは自由恋愛の国!』
昔、意味深に述べたスネークが蘇る。
『貴方は少々……人の醜態に晒されすぎたようですね』
そしてヘンリーが叫ぶのだ。
『好みの女性と結婚したいじゃないですか! どうせ人生一度きりなんですから!』
(──いや、やめておけ。求め手に入れることなど許されない。咎人が何を言う。そもそも父上や母上が生きていらしたら、俺は、とうに縁談を組まれ身を固めていただろうし)
「──閣下!」
「……! なんだ、どうした」




