3-3「陶器の仮面」(2P)
「先の報告を受けて、過去5年分の値動きを調べましたが……やっぱり、今年は『異常』です。リチャード王子が依頼を出すのも頷けます」
「────……」
スネークの報告聞きながら、彼は資料に目を落とす。
5年前、4年前、3年前……そして、今年。
数字が如実に表している『異常』に、エリックの眉根には皺が寄る。
数字に険しさをあらわにするボスに、スネークは顔を向け、
「今年の流行りモノにでもなるんでしょうか?」
「────毛皮は。
秋から冬にかけて毎年需要は伸びるものの、今年 特別需要が見込まれているわけではないらしい」
「おや。
例の『おあつらえ向き』からの情報ですか?」
「ああ」
一言 答え、エリックは資料を読み込んだ。
────ミリアの言う通り、その消費は7月ごろから徐々に増え始め、10月から12月が購入のピークだと示している。
去年までは、例年代り映えのない動きだった。
資料から彼女の言葉の裏付けが取れたところで、エリックは紙を机の上に放ると、目線を落とし口元を覆いながら考えを述べる。
「流行りの兆しも見られないそうだから……、
恐らく、どこかの貴族か団体が買い占めているんだろう。
……でなければ、こんな暑い季節に需要があるはずがない」
「──なるほど。
それなら、こちらの資料が役に立ちそうですね。
……ここ1年の推移です」
ばさりと放られた資料の代わりに、新しいものを差し出すスネーク。読み取るボスの隣、彼は言葉をつづける。
「────1・2月までは横ばい。
4月から徐々に上がり始めて、先月から跳ね上がっています」
「…………なるほど?
消費が落ち込んでいるときを狙って、徐々に買い付けたようだな」
「このまま冬に入るとマズいですねぇ。
皮革製品は容易に数を増やせるものではありません。
狩猟に適したサイズが都合よく獲れるというわけではないですから」
「……皮革製品に使える動物のサイズは、条約で決まっている。
自然に育っている命を戴くんだ。
やたらと獲っていい訳じゃない」
(──まあ、守られているのか、疑問ではあるけど)
これは、こっそり胸の内。
苦々しく呟いて、エリックはスネークに目を向け、毅然と言葉を続けた。
「……総合ギルドの方で、
これ以上値があがらないようにしてくれるか?
値が上がれば上がるほど、欲しがる貴族は金を積んでも買いに走るようになる。
『それでも売れる』と商人が認識してしまえば……
今後、毛皮製品の値を下げることは、難しくなる」
「……ですねえ。
ますます高級品になるでしょうね。
庶民の手が出せないぐらい」
「────個人的に身に着けはしないが、
動物の毛は、防寒具としてとても優秀だからな……
本当は、金の無い者ほど身につけた方がいいんだが」
(…………それが、理想論だということは十分わかってるけど)
最後の一言は口に出さず、エリックは続ける。




