8-9「出たくないったら出たくない。ああだるい、帰りたい」(3P)
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聖堂の廊下は、いつ歩いていても気が締まる。
ここに来るたび女神を感じ、人々は現在の繁栄に感謝と祈りを捧げていく。
五大貴族もネミリア教の敬虔な信徒たちだ。
このネミリア大聖堂の一室で議論を交わした後、身を清め領に戻るのが常であった。
エルヴィスもそれに漏れることはない。
厳格な廊下を行きながら、心が求めるのは女神の癒し。
清らかなる礼拝堂で心を清めなければ、とてもじゃないが戻れる気がしなかった。
────はぁ──…………
廊下を行きつつため息をひとつ。
まったく、毎度のことながら円卓会議はストレスが溜まる。
ノースブルクの領主が頭を揃える円卓会議が、じじいのガス抜き会場になっている事実が情けないが、あれがあるから均衡が保てているといっても過言ではない。
(……はあ。いっそ王政だったら楽だった)
『王は王で大変なのだろうとは思うが、盟主などという譲ろうと思えば譲れる立場ではなく、血で縛られた方が諦めもつくし心だって揺るがない』とさえ考えてしまう。
性格上、投げ出す気は微塵もないし、生まれた時から自分の命は国のものだと考えている。
──が、二年に一度ぐらい『面倒くさい』が押し寄せてくるのだ。中途半端に同盟の盟主になるぐらいなら、いっそ縛りに縛って欲しかった。
(……なんて言ったら、リチャードにもキャロラインにも怒られそうだがな)
頭の中で『エルヴィス、貴方ね。王家の重みを甘く見ないで頂戴』『おいおいおいおい~、おれの兄上になるかぁ? エルヴィスぅ?』と順にしゃべる皇女と王子をシャットアウトするように瞼を下ろし、楽を求めて左手を首元へ。
左の指輪対策でしっかりとはめた黒の手袋越し、タイを引いて首周りを緩め──
「……盟主殿! エルヴィス盟主殿!」
「……ドミニク殿」
ドミニク:二年半ぶりぐらい二度目の出演。人体収集趣味の娘を持つ男爵。




