8-9「本業なのは解っちゃいるが、出たくないったら出たくない。ああだるい、帰りたい」(1P)
ノースブルクは同盟諸侯領である。
王は頂かず、五大貴族・ジュネダール・ロフマン・エルトキア・ランベルトそしてオリオンの同盟諸侯から成り、それぞれの土地を治めている。
盟主はその貴族の中から選抜され、盟主を担う者が内政・外交の主導権を握る──のが当初の決まりであったが、実際……盟主がオリオンから離れたことはなく、今のところそれを狙う対抗馬も現れないのが現状だ。
それは、エルヴィスの先代・オリバーとその父・キルヴィスの武力行使と統制力が絶対的だったからだ。
時代は移り、太平の世。
五大貴族は均衡を保ちつつも、小さな言い合いを繰り返していた。
特に、旧体制復興派(いわば武力派)のアレキサンドラ・ワ・ロフマン伯爵と、オリオン派(現在の盟主)の重鎮・ジュネダール領のレギュラスは折り合いが悪かった。
『陸続きのシルクメイル地方を強化するため、南の小国を制圧し、大国・ジュドラムの侵略に備えるべきだ。先代ならそうした!』と主張するロフマン。
対して『国の力を上げるというなら、まず内部強化を図るべきだ。婚姻率が減りつつある今、他と争っている余裕はない。『民を育て人の力を着けていく』という盟主の政策を支えるのが、国のためだ』と述べるレギュラス。
──当然、国として執る政策は議論の余地もなく後者なのだが、エルヴィスを初めとする現政権派は、ロフマンの言い分を叩き潰すことも、相手にしないという手段も取らなかった。
なぜなら、ロフマンは五大貴族の中で最高齢。先代から貴族諸侯として支えた領主であり、生き残っている爺である。『はいはい、おじいちゃんは黙っててね』扱いしようものなら、烈火のごとく怒るのは目に見えている。
『ならばガス抜きさせればいい』と、オリオン派の重鎮・レギュラスがその役を担っているのだ。円卓会議という場で好き放題言わせ、鬱憤を消化してもらって、挙兵や謀反、裏切りなどを起こさせないようにしているのである。
ロフマンという爺が、今更挙兵する気概も根性もありはしないことは周知の事実だったが、それでも彼を唆し金を出させ、反乱を企てる輩が居ないとも限らない。
不満を持つことは仕方ないとして、それを反逆の芽に育てる前に。おじいちゃんにはすっきりして貰っているのだ。
──まあ、『それを円卓会議でやるなよ、他に話すことあるだろ』という意見はごもっともである。むしろ、エルヴィスもジュネダールもランベルト(ヘンリーの親)も皆そう思っているのだが、これはこれでもう諦めるしかない時間と割り切っていた。
通常だと、ロフマンのじじいが開口一番嫌味を言いまくり、それにジュネダールが対応。両者疲れかけたところでエルヴィスが場をとりなし、ようやく議題に入る──のがいつもの流れだったが、今回はそうではなかった。




