8-8「持ち込み制だよねどうする!!?」(4P)
投げられたのは、考えもしなかったこと。
大衆食堂『ピ・チューボ』。
客もまばらに入りだした店内で、突如、エリックが聞いてきたのだ。
『俺がもし、その旦那さまだったらどうする?』
「────……へ?」
とわれ、かたまる。
突然すぎて答えが出ない。
一瞬のような永遠のような沈黙に響いた、間抜けな声だけが耳に残った。
(──────え。
うんっ?
いま、なにきかれた?)
高速まばたきでエリックを見つめ返す。
ようやく動き出した脳が弾くのは(なんで? なにが? あれこれどういう意図? ぬんっ?)という疑問ばかりで、一向に答えにたどり着けないミリアの前。
真剣、迫真さえ感じるエリックの眼差しが──
「──フ! 冗談。冗談だよ、決まってるだろ?」
「…………へぁっ……?」
真面目な顔から一転。
鼻で笑いながら言われて目を点にする。
完全に虚を突かれぽけらっとするミリアに、彼は口元を押さえながらくすくすと肩を揺らすのだ。
「フ! なーんだよ、その顔。みたことのない間抜け面なんだけど、フフフフフフ……!」
「…………ちょっとお。からかったね??」
心底楽しそうなエリックに、思わず”むっ”と、声も太く言い返した。
一瞬慌てたのに。
マジに捕らえて
(へ、おにーさんが『旦那さま』? だったら? え゛?)と思考を全力回転させたというのに。
蓋を開ければこれだ。
からかいやがった。
(────こいつ〰〰〰〰〰〰〰っ……!)
けらけらクスクス。
肩を揺らし目じりを下げる彼に、渾身の握りこぶしを作る。
──が、彼は笑いを押さえるように「ふぅ」と一息吸い込むと、ご機嫌を宿してひとつ。




