8-8「持ち込み制だよねどうする!!?」(3P)
拍子抜けだ。
今さっきまで慌てふためいていた自分は何だったのか。
吐き出す息と共に腰も下がる。ガタンと音を立て腰かける自分の前、エリックは顔色一つ変えずにほほ笑んでいるのだ。
──その雰囲気に──
「ふふふふふっ」
ミリアは思わず吹き出していた。「ん? なに?」と首を傾げ、目を見開くエリックに、両手でご機嫌な頬杖を作ると、
「おにーさん、旦那さまのことになると自信たっぷりだよね? なーんか、自分のことみたいに言うから、面白くってっ」
ケラケラと笑って言った。
──そう。
彼はエルヴィス盟主のことになると多弁だ。
ミリアが『旦那さまって妻子持ちなのに舞踏会開くとかさいてー』と誤解した時も必死だったし、先ほども、旦那さまのことを聞いていたのに実に真剣に答えてくれていた。
今だってそうだ。
彼のことになると自慢げで優しい顔つきになる。
エリックが旦那さまに対して恩恵や尊敬を抱いていることは十分わかっているが、自分のことのように語るのはもはや、少年のようで……ほほえましく感じてしまうのだ。
他人の、誰かに対する想い──
前向きな思いを聞くのは楽しい。
こちらまで元気になる。
ふふふっ。
並んだ料理の中、彼女は最後の鳥の串焼きをつまみ上げ、ご機嫌に口に運びつつ。
──「ほんとに大切なんだねぇ~」と言いかけた──その時。
「────なあ」
妙に神妙な音が、その場を貫いた。
時間が止まった感覚。
耳に響いた喉の音。
目の前のエリック。
(うん? なに?)──と、目を向けた先。
彼は、一瞬迷うように瞳を下げると、藍よりも青く暗い瞳に真剣を乗せて、
「……俺がもし……その『旦那様』だったら……どうする?」




