8-7「おにーさん、わたし旦那さまのことを聞いている」(10P)
(……よく考えたら、わたし、おにーさんが仕事してるところ知らないや……、旦那さまのお付きをしてるとこ)
上手い肉を味わいながら、ミリアはぼんやり考えていた。
この調査も仕事なのだろうが、彼の本職ではないことは理解している。
自分が見ているエリックとは違う顔で仕事をしているんだろうな~とも思う……のだが。
普段の物言いや、現れる時間を考えると、いつ『旦那さま』に着いているのかさっぱりわからない。加えてミリアは、貴族の暮らしや盟主の苦労をまるで知らない。
(旦那さまに無礼を働く人を窘めたり牽制したりするのかな? だとしたら貴族嫌いなのもわかる……そりゃあ嫌になるよねぇ……っていうか盟主さまに無礼働くとか、度胸ありすぎる……怖すぎる……)
「──しかし、どうするかな……」
なんか広くて豪華な謁見の間みたいなところで、なんか失礼に食ってかかかる貴族と、それに牽制を飛ばすエリックを想像し、身震いと共に肉を飲み込むミリアの前で。
脳内修羅場とはまた違う、穏やかでありながらも悩んだ声がミリアの意識を引き上げた。
「うん? どしたの? なにが?」
意識せず問いを投げる。
目の前の彼はいつもの彼だ。
口元を右手で覆いながら、やや気難しそうに眉を顰めるエリックは、こちらにちらりと目くばせすると、
「品評会。どのような規則で行われるのか不明だが、『富裕層のお披露目会』だとしたら、質がな……手ぶらで行くわけにも行かないだろうし、どの程度の品が集まるのか皆目見当もつかな」
「待った」
「うん?」
彼の一人会議を遮って。
今度はミリアが待ったを入れた。
思わず上がった手。
我ながら引きつった顔をしている自覚のある彼女に、エリックの不思議そうな視線が降り注ぎ────
「──毛皮。どうやって用意する……!?」
動揺で真っ青に染め上げて。
ミリアは震えた声で問いかけたのであった。




