8-7「おにーさん、わたし旦那さまのことを聞いている」(9P)
エリックの怒りに触れて、彼女は黙った。
彼の感情はやや大げさだと感じるところもあるが、しかし言われていることは理解できる。
──自分の力が足りないのではないのだ。
彼が行かせたくないのだ。
黙り込む自分たちの間を縫うように、静かに運ばれてくる料理たちに目を落としながら考える。中途半端なところに置かれた鳥の串焼きを前に寄せて思い出す。
彼は言った。
『俺を求めてくれるのなら、命を賭けて護る』
ヘンリーは言った。
『なんでも抱え込みすぎる』
それらを総評すると、
(──……仲間、を、まもるひと。仲間に痛い思いをさせたくない・でも、自分は痛くても構わないって思ってるひと。だから、相棒のわたしに、痛い思いさせたくない……ってことで)
「それで、おにーさんは大丈夫なの……?」
言葉は口を突いて出ていた。
言い分も思いも、汲めるところは汲み取ったつもりだが、それでも聞かずには居られなかった。
こちらにもこちらの思いがある。
しかし彼はさらりとした表情で言い返すのだ。
「俺? 心配には及ばない。奴らの扱いにも慣れている」
「嫌なこと言われても?」
「ああ。もちろん」
「……旦那さまに付くって、大変なんだね……」
迷いなく言われて、ミリアは……語気も視線も落としていた。
貴族の付き人──しかも盟主さまの相手などしたことのない自分には、彼の苦労も盟主の不穏もわからない。
『ただ単に優雅で豪華な生活のお手伝い』ぐらいしか浮かばぬミリアは、今。流れるように食事の挨拶を済ませ、目の前に出された串焼きに手を付けるしかなかった。




