8-7「おにーさん、わたし旦那さまのことを聞いている」(5P)
「──で。話を戻すけれど」
顔の中心に『なに言ってんだあいつ』を集めるミリアの空気を散らすように。きりりとしたエリックの声が場を駆けた。
「──あ、うん」
言われて意識を戻せば、そこには、(なんとかどうにか)心を切り替えた(ように見える)エリックだ。
何もなかったかのようにこちらを見据える彼に、(おっ。空気が変わったぞ?)と胸の中で実況なんぞをしつつ、聞く姿勢をとるミリアに、エリックは続ける。
「シャトワールがうまくやってくれれば、品評会に潜り込むことができる。ここまで色々と長かったが、少し進展と捉えていいだろう」
(まじでいきなり話戻った。脳みそ追いつけなきゃ)
「うん」
慌てて頭の中にシャトワールを引っ張り出す。
(こんなこと前にもあったな)と思いつつ表層を整えるミリアに、エリックは難しそうに口元を押さえながら述べるのである。
「なんとか事前に情報を得られればいいのだがな……、そのあたりはこちらで手を尽くしてみるよ」
「しゃとわーるさんにおねだりしてみる? シャルマンダ様から聞いてくれませんか~って」
「…………あのなぁ。ミリア?」
「?」
「──そもそもだけど。貴族は平民の頼みなど聞かないんだよ。シャトワールが異常なんだ。シャルマンダがビスティーの顧客とはいえ、頼みなんて聞いてくれると思うか?」
「────うっ……!」
いきなりど正論で突いてくる男である。
どうやら先ほどまでの『愉快な彼』は消え去ったようで、言葉に詰まるミリアにエリックの次弾が降り注ぐのである。
「それにこの先、シャトワールとの関わりも最小限に抑えるつもりだ。店舗と顧客という関係性もあるだろうから『切れ』とは言わないが、この調査にこれ以上、巻き込むつもりはない」
はっきりと言いきったエリックに、ミリアは逆に目を反らした。
気まずかった。
「……うぅん……要件なくなったら離れるって……完全に利用してるみたいで、」
「『みたいで』じゃなくて『利用している』んだよ。そこは割り切れ。彼女のためだ」
「…………」
バッサリ言われて、ミリアは視線を落とし黙り込んでいた。
──こういうところは容赦がない。
楽しくて忘れそうになるが、確かにこれは『調査』だ。『作戦』だ。遊びではないし、奥に何が潜んでいるかもわからない。
緩んだ気持ちにガツンとくぎを刺されたような気がして、しゅんと顔を落とし背中を丸める。『みたいで』とぼかすことで、自己嫌悪から逃れようとした自分まで見透かされた気がして肩身が狭い。
(……う……。なんか反省…………)
「────ミリア。君のためでもあるんだ」




