8-7「おにーさん、わたし旦那さまのことを聞いている」(4P)
──わけのわからぬ男である。
気まずそうに話をぼかしたかと思えば、真剣に忠告して。このまま戻るかと思えば、猛烈に咽こみ始めた。
(……これのどこが『鉄か石畳で出来てる彫刻仮面』……? これの、どこが……?)
全力で疑念を送る。
『表情が鉄か石畳』とか言ってたヘンリーに、頭の中で疑念を送りまくる。
彼は一体、どこをどう見て『エリックは陶器の仮面でもつけてる』と言ったのだろう。まったくもって意味不明である。
(お屋敷ではそういうモードってこと……?)
じいいいっと凝視しながら首を捻るミリアの前で、エリックはというと、咽こみながらも葛藤しているようで──……
『ごほんっ、んんん、はあ、違う違う。しっかりしろ、俺』
(……って言ってる気がする。書いてある。うん、そう言ってる気がする)
『ふう、すぅ──、はあ、気を確かに持て。落ち着け俺』
(って言ってる気がする。何が『違う』とか『落ち着け』とかよくわかんないけど)
彼の内心(?)を察し(?)つつ、ミリアは平坦な顔で声をかけるのだ。
ぼそっと。
「…………………………だいじょーぶですか」
「……あぁ゛、う゛ん゛、ごほっ」
──すぅ──、ふう────
きりっ。
「気にすることはない、大丈夫だ」
「………………ぅん………………」
(やっぱし愉快だと思うの。この人)
小さく咳き込みながら、きりりと顔を作り直すエリックに。
ミリアは改めてそう思った。
ヘンリーという男には『なにいってんだこいつ』という目で見られたが、それはこちらのセリフだ。そりゃあ彼の表情はそこまで派手な動きはしないが、今のわずかな時間でも、真剣・焦り・饒舌・焦り・咽こみ自爆(?)と愉快な面を見せてくれた。
(……何を言ってるんだろう……? ヘンリーさん、まじで……。
この人、最初から『煽りまくりで意地悪で優しい』っていう、よくわからない人なのに……??)
テーブルの上。
組んだ指に顎を乗せ、能面真顔で思い出す。
確かに真顔は綺麗な彫刻のようだし分かりにくいと言えばそうなのだろうが、常に糸目でニコニコとほほ笑んでいるスネーク・ケラーより断然読みやすいのに。
「──で。話を戻すけれど」




