8-6「始まりの”ピチューボ”で」(9P)
返ってきたのは、心底不思議そうな顔だった。
「うん? そんなこと言ってなくない? 別にわたし、『旦那さま、寂しい人だね』とは言ってないよ?」
「────……」
──そうである。
彼女は旦那さまの話をしていたのだ。
最初からそうだ。
しかし、聞かれているうちに忘れた。
自分のことだとして答えていた。
その上変に取り繕おうとしたことに気が付き愕然とする。
────ダサすぎる。
全身冷や汗が滲むエリックの前。
知らぬミリアは「あるぇ?」と首を傾げると、
「『自分が興味ないマーケットの情報なんて、入ってこないよね』って話をしているつもりなんだけど……、あれ……?」
「………………」
──ああかっこ悪い。
『自身の至らない部分を突かれたくない』・『でもごまかし言い訳するのも抵抗がある』・『そもそも晒すのはカッコ悪い』というせめぎ合いの直後、暗に『おにーさん、大人の振る舞いと付き合い出来ない人なんだね~』と言われたように感じて、咄嗟に慌てて否定してしまった結果がこれだ。
バカすぎる。
(──元を正せば旦那様の話だったろう、馬鹿か俺は……!)
頭が混乱する。
自分に怒鳴りたい気分だが、今ここでそれを露わにするわけにはいかないし、頭を抱えるわけにも行かない。
身体の中で暴れまわる、恥ずかしさと居たたまれなさを潰し堪える彼の前。なーんにも解っていないミリアは、こくんと首を傾げ次弾を放つのである。
「旦那さまのこと、孤独な人だと思ってないよ?」
「…………悪い。今のは忘れてくれ」
「お付き合いできない人とか思ってないから」
「…………あぁ、ぅん……、わかった……わかっている……………………………………………………………………………………………………」




