8-6「始まりの”ピチューボ”で」(8P)
(……解ってくれたのか、有難い)
その様子から滲み出る納得の色に息をついた。
緩んだ空気が有難かった。
自分が至らないのは重々承知なのだが、知識や政策をチクチク責められるのは諸侯同盟円卓会議で充分である。
瞬時浮かんだ円卓会議の様子と、沸いたストレスを鼻から逃がす彼の前。次は、「じゃあ」という声と共に、顔を上げたミリアから放たれた。
「奥さまは? あ、『お母さま』。服飾に興味なかったの?」
「…………当の昔に鬼籍に入っている」
ぽん、と聞かれ、素直に答える。
とても素直に答える。
彼は母のことを肖像画でしか見たことがない。
そこを匂わせずに答えたエリックに、ミリアの問いはリズムよく放たれる。
「お父さまは?」
「残念ながら」
「ご兄弟は?」
「いないよ、ひとりだ」
「おばさまとかおじさまとか」
「それに値する人は居るが、血縁でないな」
「……………………そっかあ」
「どうした?」
「ううん?
『じゃあ、「こそこそ品評会」、知らなくても仕方ないかぁ』って。
ツテというか、お付き合いというか、そーいうのが無かったら、存在も知らないよね~。ああいうのって横の繋がりで呼ばれるんだと思うし……」
「…………いや、別に、さ。全く付き合いがないわけじゃないぞ? |富裕層並びに貴族連中《 そ う い う や つ ら 》 とも付き合っているさ」
──まるで。
『お友達いないんだね』と言われているような気がして、エリックは間髪容れずに首を振っていた。確かに友人と呼べるものはこの世に存在していないが、面倒だと思いつつそれなりに人付き合いもしているのだ。
──そう、言いたかったのだが──




