8-6「始まりの”ピチューボ”で」(6P)
「そもそも、毛皮ってそんなにデザイン変わるもんじゃないし……毎年毎年新しいデザインやモデルが出るわけじゃないし、流行りを数年単位で売り出していくからぶっちゃけ去年のヤツ出されてもわかんないし、今の時期に仕入れたところで邪魔になるだけだし……」
言いながら、頭の中を占拠する『真夏の毛皮製品(在庫)』。高価なうえに嵩張り、手入れも面倒な毛皮のコートなんて触れたくもない。
「あのね?
綿はわかるの。
品薄になるのわかるの。
需要あるし、買い込んでたとしても用途沢山だし、基本的にどんなものにだって使えるし。
でもでも、毛皮はわかんない」
ミリアは首を振った。
今から加工して冬に売り出すつもりなのは想像できるが、在庫が品薄になるほど今年の服飾ギルドは毛皮を推していないのに。
「推すのはベロアなのに……。
なぁ~んでこんな季節に毛皮だったんだろ……。
いくらノースブルクでもあんなの暑いに決まってるし、加工するのも暑苦しーのに……」
「…………」
はぁ、と息をつくミリアの向かい。
聞き手にまわっていたエリックは、自分たちを貫く視線に気が付き瞳を滑らせた。
────見られている。
それは、厨房奥。
店主の視線を感じた瞬間、無意識に背筋が伸びた。厨房からの無言の圧力が、こちらにじわじわと迫ってくる。
──それらを察して。
エリックは素早く・しかし静かに口を開くと、
「ミリア? ……注文しようか、店主が見てる」
「うん、とりのくしやき。」
「選ばないのk」
「とりのくしやき」
「…………」
間髪容れず。
ノールックでメニューを”す──っ”と滑らせながら、二度きっぱりはっきり言ったミリアに、黙った。
この店はミリアのお気に入りのはずだ。
値段も驚くほど安く、大好きな鶏料理を前に、串焼き3本でメニューを譲ってきた彼女に眉を顰める。
「え? 他には?」
「要らない。以上です」
「それで足りるのか?」
「お金ない。給料日まえ」
「………………………………」
──その。
まるで鍛錬中の騎士のように『以上でござる。拙者、それ以上の飯は要らぬ』と言わんばかりの面構えで指を組み、背筋を伸ばして凛々しい顔をするミリアに、エリックは沈黙した。
……確かに、ミリアがカルミア祭……いや、オリビアとリックのショーに向けて気合を入れていたのは知っている。金を使っていたのも解っている──が。
(……それごときの出費で食事もままならなくなるのか……? どういう経済状況なんだ……?)
と、密かに疑問に思う『家柄ハイパースペックのエリック』は、それらを外には出さず、数秒。
何食わぬ顔でざらりとメニューに目を通し、静かに手を挙げ、店主を呼び口を開くと




