8-6「始まりの”ピチューボ”で」(5P)
こういう時、エリックは本当に良く喋る。
富裕層と金の話題になると彼は嫌悪と呆れを露わにする。
冷静に話しているように見えて実に感情的だ。
言葉の節々に『くだらない・あほらしい・汚らわしい』を滲ませ貶すのだが、それらがどうも、嫉妬や羨望からくるものではないように感じる。
(……まあ。知ってるからこそ出る不満ってあるよね。
旦那さまへの愚痴は出ないのが不思議なんだよなぁ……)
と、ぽっそり。
(……んまあ、きっと、わたしの知らない、黒い闇でも見てるんだろう、うん。旦那さまのこと、コケにされたりとかしたらムカつくだろうし、それが出てるんだよね、うん)
声には出さずに呟いて、きゅっと握っていたメニューをテーブルの中央に置くミリアに、エリックは、落ち着き払った様子で話し出す。
「……しかし、それらを馬鹿にもできなくてね。そういった市場には必ずと言っていいほど上質なものや出元不明の品が出る。俺たちの調べている件も、そこから掴めるかもしれない」
「……そんな早く市場に流れるかなあ……?」
「”どの形”で取引されるかにもよるだろ。そこに現れる古物商に聞けば少なくとも、今より何かしらの情報は得られると考えている」
「……まあね~、ちょいちょい他の服飾店や職人さんに聞いてみても、『毛皮なんてまだ早い、っていうか卸値変わるの?』って反応だったもんねぇ……」
鼻から息を逃しつつ、真剣に述べたエリックに、ミリアも腕を組み眉を下げた。
あれからおよそ一か月。
怪しまれない程度に探りを入れてみてはいるが、毛皮のけの字も出てこない。
そもそも服飾ギルドも忙しいのだ。
真夏は舞踏会(という名の星を見る夜会)が増えるし、今年はオリオン盟主の突発舞踏会もあった。
そんな舞踏会祭りを終えたら、今度は一気にカルミア祭。季節外れの毛皮のことなんて考える余裕もないのが現場の人間だ。
──それらを思い描きつつ。
ミリアは困り顔で両頬を包むと、悩まし気な頬杖でぼやき出す。




