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8-6「始まりの”ピチューボ”で」(3P)
「……でも……らっきーだったね」
「……ああ、本当にな」
なじみの店主に挨拶を送り、空いてる席に腰かけて。
メニュー表で口元を隠しながら、辺りの様子を伺いつつ、小声で呟いたミリアに、エリックも顔を動かさず相槌を打っていた。
『鶏焼き・ピチューボ』。
この辺りでも屈指の安飯屋、けっしてしゃれていない店内の奥・油まみれの厨房から聞こえるのは仕込みの音。
トントン・カチャカチャと控えめな音が響く中、ふたりが思い出すのはシャトワールだ。
あの後シャトワールは、ミリアを散々伝達フィルターとして使った後、『こんなにもシャルルに尽くしてくれている!』と感激し、勝手に『できることは無いか』と聞いてきた。
──その、(こんな都合のいいことある?)とミリアが顔面パーツを全て平坦で突っ込みを入れてしまう状況に、すかさず切り込んだのはエリックだった。
ミリアの表情が崩れる前に、状況を嘘で包みまくりシャトワールに説明。するとシャトワールは笑顔でミリア越しに述べたのである。
『それでしたら、お母さまに訊ねて参りますわ、実は……』




