8-5「エルヴィスさまではありませんか???」(5P)
「『……シャルルの思い描いていたあの方は、エルヴィスさまではなかったの……?』」
「仕方のないことですよ、シャトワール殿」
「そぉそぉ、わたしもよくあります、そういうの~」
シャトワールモードから一変。
地声に切り替え話すミリアが空気を変えた。
彼女の出すゆるゆるとした空気に、詰めていた息が緩むのを感じる彼の目線の先で、彼女はお道化たように首を傾げると、
「ちっちゃいころの記憶って曖昧ですよね~、全然記憶間違ってたり、思い込んじゃってたりして……、あるある、そういうのあります~!」
にこにこ言いながら、手をパチン。
完全に空気が変わった瞬間であった。
怯むシャトワール、こっそり息をつく彼。
そんな二人の変化など微細ほども感じぬミリアは、自信満々にシャトワールに微笑むのだ。
「第一、えるびすさまがこんなところ歩いてるわけないじゃないですかっ。ねっ?」
「.......,......!」
ミリアはそういうが、実際は思いっきり歩いている。
盟主はそこに居る。
真実はシャトワールにある。
しかし。
「だって、そのお方は盟主さまなのでしょう? 歩いてたら騒ぎになっちゃいますよっ(顔も知らないけど)」
「.......,......!」
にこにこのミリア。
迷うシャトワール。
それを見守る本人。
ミリアは続けた。
「それに、盟主さまが女性の格好をして、私みたいな一般人と一緒に居ると思います? ないない、ありえないじゃないですか♡」
「.......,......!」
言われ、シャトワールは一瞬、目を閉じて──迷っているようだった。
その小さな動きひとつひとつが、エリックの喉を締め付け鼓動を捲し立てる。
ああ、予想がつかない。
まるで時間が止まったかのように次の言葉を待つ中、「答え」は、ミリアのフィルター越しに放たれた。




