8-5「エルヴィスさまではありませんか???」(1P)
青天の霹靂。
ミリアの──いや、シャトワールの一言は、エリックにとってまさに「青天の霹靂」と言わざるを得ないものだった。
『エルヴィスさまではありませんか?』
まさかこんな場面で、ミリアの口から、本名が飛び出すとは思わない。
全身に走り抜ける緊張・氷水を流し込まれたような感覚・落ち着かねばならぬ状況で脳が混乱する中、エルヴィスの脳裏を過ったのは「幼き頃のシャトワール」だ。
確かに昔、エルヴィスはシャトワールに会っている。しかしそれは、彼女がまだ年端も行かない頃の話で、ただの一度きり、ほんの数分話した程度だ。そんな、一瞬関わっただけの相手のことなど覚えているわけがないと高をくくっていたのだが──
まさか。
※
(嘘だろう……!?)
不意打ちに汗が滲む。
何も知らないミリアも居るこの局面で、シャトワールのそれは、攻撃型魔具を全力で放たされたのと等しい衝撃だ。
(……待て。落ち着け、焦るな。シャトワールはミリアになんと聞いた? それがわからない以上、下手に動けば墓穴を掘る……! 動くな!)
エリックが理性を総動員して、平静かつ冷静・平坦を装い熱視線を送る先、ミリアはというと、ふつーの声でぱたぱたと手を振り、
「いやいや、エリックさんです。彼は、エリック・マーティンさん。人違い人違い」
(────ミリア!)
起死回生の一言。
思わず上がる顔。
一切の迷いもなく、間違いを正すような口調で述べる彼女に心が上がる。
まるで女神が助けを差し伸べてくださったような感覚だ。今ほど「助かった!」と思ったことは無い。
ミリアはエリックがエリックだと信じ切っている。
だからこそ裏もなく(当然だが)返したのだが、シャトワールは頑なだ。
黙ってフルフルと首を振ると、ミリアの身体をぐっと引き寄せ耳に近づき、エリックには聞こえぬ声で、懸命に、
「.......,......! .......,......!」
「『そんなはずない、えるびすさまに違いない』って、しゃとわーるさま??」
「.......,......! .......,......!」
「え? いや、えーっと? しゃとわーるさま、もうちょっと声おっきく?」
「──ミリア?」
あいだに挟まれ、戸惑うミリアに、たまらず声挟んだ。
ああ、聞こえないのがもどかしい。
ミリアに何を言っているのかわからない。
シャトワールの言葉は真実だ。しかし正体を明かすのは今じゃない。ここは何としてもシャトワールを煙に巻きたいが、しかし強引に行くのは悪手だ。
(──くそ……! 下手に動けない……!)
じわっと噴き出した焦りと、ぶり返した『まずい』を、なんとか包みにくるむエリックを視界の隅に。
シャトワールに耳打ちされたミリアは「ふんふん」と何度も相槌を打つと、エリックに向かって顔を向け、




