8-4「本家は爪を隠すもの」(7P)
心配されなかったのは残念だが、しかしそれも予想の範囲内。
仮にもスパイのボスで、嘘を吐くなど日常茶飯事の自分を、『嘘が下手』と思い込んでいるミリアが愉快で可愛らしい。実は盟主である自分に「つまんないことしないの」と怒る彼女が微笑ましい。
くすくす、──フ! んんっ。
(もう少し、嘘の演技を練習するべきかな)
緩む頬を右手で覆い、ぐっと目じりに力を入れたエリックは、次に切り替えるように背を伸ばすと、ミリアの後ろ──シャトワールに目を向けた。
ベンチに近寄ったミリアの背に、張り付くように隠れているシャトワール。先ほどの高飛車高笑い令嬢はどこに消えたのか、今はその顔すら見えない。
──様子が変である。
「……? シャトワール、様? いかがされましたか?」
「…………!」
ミリア越しに唸るシャトワールは、目を伏せたままこちらを見ようとしない。
スリに遭う前とはまるで別人だ。
素直に首を傾げて視線を向けるエリックだが、シャトワールは完全にミリアの影に隠れてしまった。
当然、浮かぶ疑念と不審。
「……ミリア? シャトワール、様は……どうした?」
「あ~~~~、え〰〰〰〰〰っとぉ〰〰〰〰〰」
その問いに、ミリアの困ったような声が返り──
※
「──はっ? 極度の男性前 緊張症候群?」




