8-4「本家は爪を隠すもの」(6P)
「……腹を殴られてさ。今も痛むんだ。ずきずきする」
嘘である。
気を引きたいだけだ。
そんなエリックに、ミリアの視線が注がれて──
「…………うそだよね?
顔、にやけてるもん。
なぜそのような嘘をつくのか」
「……嘘じゃないよ、ほんとう。ああ、痛い」
「うそですね? 顔、半笑いだしね? 効かないよ?」
──フ!
じぃ〰〰〰〰〰〰っと、皿のような視線で首を傾げられ、エリックは吹き出していた。
駄目だったようだ。
作戦失敗だ。
ミリアに嘘の同情は利かなかった。
さっと切り替え胸を張り、小さな声で「ああ、残念、駄目だったか」と肩を揺らすエリックに、ミリアはというと呆れ顔だ。ゆるゆるとした口調はそのまま、ジト目をこちらに向けると、
「バレてるよ~、駄目でしょ、騙すなら一発目にやらないと。
おにーさん、ほんと嘘つくのへたっぴだよね?」
「…………、ああ。うん、そうかもしれない」
心底『下手だよね?』を込める彼女。
その『もう。お見通しなのに~。まったく、つまんないことしないのっ』とでも言いたげな顔つき口調に、エリックは、こみ上げる笑いをかみ殺した。




