8-4「本家は爪を隠すもの」(6P)
※
「──ミリア!」
「あ、おにーさん!」
荷物を抱え、彼は戻ってきた。
道幅の狭いザターナ通り、駆け出した辺りに戻ってみれば、そこで待つのはいつもの彼女。遠目からかけた声に、ミリアの弾かれたような声が返ってきて、思わず安堵がこぼれる。
ベンチにかけているシャトワール。
駆けよってくるミリア。
ああ、良かった、無事なようである。
そんな様子を視界の中心に、一層足早に駆け寄るエリックの口から、言葉は勢いよく飛び出していた。
「怪我はなかったか?」
「怪我、なかった?」
「「──えっ」」
見事にハモったお互いの声掛け。
互いに目を見開き驚いて、漂うそこはかとないむず痒さ。
しかしそれらを一瞬で納め、素早く肩をすくめて軽口で反応したのはミリアの方だった。
「わたし? わたしは無いよ、シャトワールさまと一緒に居ただけだし……、それより、おにーさんこそ大丈夫? 無理してないよね?」
「俺? 俺は、この通りだ。どこか怪我をしているように見える?」
「…………見えない。そっか、良かった~、ケガしてたらどうしようって思ってた~」
「…………」
胸をなでおろし、くるんと踵を返すミリアに、一瞬。
ゆるゆるとした彼女の背中に、瞳を惑わせ、深刻をたたえて、声をかけた。
「ミリア、実は…………」
振り向くミリアに向けるのは痛々しそうな顔。
眉を下げ、憂いを湛え、みぞおちのあたりを押さえながら──言う。




