8-3「お・そ・い〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰……!」(5P)
(────うん。諦めよ)
秒で諦めた。
彼女は「ミリア・リリ・マキシマム」。
切り替えの早さだけはピカイチの女だ。
視界の隅で、『……殿方だけならまだしも、侍女ともお話しできないなど、シャルルも困ってしまいまして……このままではあのお方にお会いできません……』という趣旨の文言を、他人の5倍の時間をかけて呟くシャトワールのソレを聞き流し、賢者のような目つきで虚空を眺め、思考を整理する。
(『どうしたらいいの~!?』って、これどうにもできないやつだから。『自分以外は変えられない』がセオリーだから。わたしがここでシャトワールさまにお話ししても彼女が変わるわけないし。無理でしょ、無理無理。なら、おにーさんが帰ってくるまで無難にしのぐのが最適解なのでは?)
壁に向かって腕を組み、眉を顰めて整理する。
瞬時に(でもこれ、おにーさんが帰ってきたあとも絶対一波乱あるよね?)という懸念も生まれるが、それはそれ。これはこれ。
(うん、うんうん。そうそう。ここは『凪』。凪で乗り切るのです、ミリアさん。いいですか? わかりましたか? ここは『受け』です。『受け流して耐える』のです)
壁に向かって頷いて、想像するのは『ゆっくり令嬢』の対応方法。
『にこやか・すまいる・子ども相手だと思って』
『うんうんニコニコすまいるえれがんと』。
これさえ押さえれば大丈夫。
(────わたしは総合服飾工房のミリア! できないはずがないッ!)
きりりと瞳に光を宿し、決意を新たに振り向いて、ミリアが口を開こうとした──その時。
目の前で、『すぅううううう!』と大きな息遣い。呼ばれたように視線を向けるミリアの前、ふんぞり返ったシャトワールから、それは放たれた。




