8-3「お・そ・い〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰……!」(1P)
ノースブルク諸侯同盟国・オリオン領西の端。
ウエストエッジのザターナ通り。
ひったくり騒動にどよめく民衆を散らして、その場に残されたミリアは、シャトワールと対峙していた。
シャトワールが『高笑い咽まくり令嬢』から一転。『赤面もじもじピクシー声令嬢』に変貌を遂げてしまったのだ。
大混乱だ。
瞬時に状況を飲み込むことなど出来なかったし、数秒狼狽したのだが──ミリアはすぐに持ち直した。
何故ならミリアは、これらのテには慣れている。
男嫌いの男好き・リディー。
問題だらけの縫製妖精・ピィとハニー。
『安定という言葉が消滅しているのではないか』と思えるような彼女たちを相手にしているミリアにとって、シャトワールの弱体化とも呼べるこの変貌は、逆に好都合であった。
(──これならまともに会話できるかも……! 勢いもないし!)
──そうと見込めば話は早い。
真っ赤に震えるシャトワールに謝罪を入れ、手ごろなベンチを見つけてご案内。貴族様がお掛けになられても宜しいように場を整えて、もじもじとする彼女に、エリックの女装などの事情を話そうとするミリアに、しかし。
シャトワールから返ってきたのは、小さな、小さな、震え声だった。




