8-2「──────地獄だ」(5P)
「……!」
「シャトワールさま、さあ、どうぞ!」
「…………!」
「高笑いしないで、ふつうに!」
「………………!」
「──さん、はいっ!」
「…………!!!?」
「…………シャトワールさま?」
「………………! ……!?」
(──? なぜしゃべらない? 難しいことではないだろう?)
首をかしげるミリア。
胸を張ったまま微動だにしないシャトワール。
そして、それに疑念の視線を送るエリック。
ミリアとエリックに挟まれる形で、大きくのけ反り、今まさに声を放とうとしているシャトワールの表情が──みるみる焦りに染まっていく。
瞳は動揺で泳ぎまくり、ぶわっと頬に汗が浮き出し、苦しそうだ。
それを目の当たりにして。
ミリアは、ぱちぱちと細かく瞬きをしながら、恐る恐る、問いかけた。
「…………もしかしてシャトワールさま……。『しゃべり出しがわからない』とか言いませんよね……?」
「…………!」
(そんな馬鹿な)
まるで絵に描いたように『図星!』と引きつるシャトワールに思わず突っ込む。
(そんなバカげた話があるか)と思うのだが、しかしシャトワールは真面目に困っているようだ。
まるで空気が無くなったかのように顔を赤くするシャトワールに──ミリアは慌てた声を上げた。
「えっ、えっ? ほ、ほんとに? えっ?」
「………………!!」
混沌の一幕である。
自分がミリアの立場ならどうしていただろうか。
今はシャトワールの対応をしていないから一線引いて見ていられるが、いざとなればどうしていいものかわからない。
会話にさえならない気もするし、そこをどうにかしようと頑張る気にはなれない。今のミリアの立ち位置を彼が勤めていたのなら、さらりとシャトワールの代わりを探し、彼女との縁は無かったことにするだろう。
どこをどう転がしても『詰み』にしかならない想像に、げんなりと眉を落とす彼の前。ミリアは慌てて声を張る!




