8-2「──────地獄だ」(4P)
普段、ミリアに対して『仕方ないな』という気持ちでいる方が多いし、多少手間のかかる相棒という印象を持っているだけに、今見えている彼女は新しい。
ひそかに見直すエリックの視界の中で、ミリアは折り合いをつけるように言うのだ。
「危ないですからっ、『危ない』んですっ。今お目付け役の方もエドモンドさまもいらっしゃらないんですっ、お願いですから普通に、お話してください~っ」
ああ、新鮮だ。
そしてとても感慨深い。
彼女の口からこぼれ出している『危ない』は、ミリアに警戒心が生まれたことを意味している。自分が口酸っぱく伝えていたことが伝わったのだと捉え、心に芽生える充足感。
もちろん、アルトヴィンガやオースィンの件を受けて、ミリアもいろいろと心境の変化があったのだろうが(無くては困るが)、『伝わった・解ってくれている』という成果は、シンプルに嬉しい。
────しかし。
(──それはそれとして。気を抜くなよ……!)
エリックは緩んだ気持ちに叱咤を入れた。
ミリアの変化に喜びをかみしめている場合ではないのだ。
一見平穏(?)に見えるが、この先何があるか分からない。
(どうもミリアはトラブル体質のようだからな……、少なくとも「自分で突っ込んでいく」ことが無くなるだけでも危険は減るんだ。いつも俺が着いて居られるのならいいが、そういうわけにも行かないし)
分厚い前髪の奥。ぐっと黙りこくる彼の前で、女二人の会話は続くのである。
「高笑いはなしで、普通にお話しましょう!」
「普通!? どういう意味ですの?」
「さらっと、自然に! お願いです!」
「わかりましたわ!」
「…………」
(……よし、頼むから黙ってくれ……)
ミリアの懇願に乗せるように、エリックもぐっと強くそれを祈って──……
次の瞬間、シャトワールが固まった。




