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8-2「──────地獄だ」(3P)





「ごほっ、ごほっ! おーっほっほっほっほ! 何をおっしゃいますのミリアさんッ! このエドモンド家嫡子・シャトワール! 名乗りには人一倍こだわりがあるのですよッ!」


「……名乗りは大事ですね! 名乗りは大事です! でも、そことそれは別でございましてねっ? お名前言うのは危険なんですよ~、だめです、シャトワールさま、やめましょう~」

(……そうだ。シャトワールを黙らせてくれ、ミリア)



 シャトワールの言い分を素早く肯定しながらも方向修正しようとするミリアに、静かに強く念を送るエリーナ(エリック)。




 自分が話せない分、シャトワールと関わるのはおのずとミリアだけになる。


 心の底から(お目付け役(シャペロン)に同行を願えば良かった)と後悔もでるが、しかし。その『監視から逃れられる解放感』はわかるのだ。自分もそうだった。

 

 しつこいほど監視を確かめ、探し、本当にいないと確認したあの日。

 煩わしい茨が枯れ落ち、自由になった気がしたあの日。



 それらを覚えているから、シャトワールとミリアの間に割り込むこともできない。

 ただの荷物持ちのメイドに徹する他なかった。



 ──そんな現実に、内心こっそり疲れを覚えるエリックの前で。

 シャトワールは元気はつらつだ。

 すうううううっと大きく息を吸い込んで、反り返った手の甲を口元に当て言い放つ!



「おーっほっほっほっほ! 存じ上げております! このエドモンド家嫡子・シャトワール! 『危ない』とお父様にもお母様にもそう教えていただきました! しかしあれは幼子のころ! 今は大人ですのよ──ッ!」

「う、うぅん、ですからぁ、あの、オトナだとか関係ないヤツがいるんですってっ」



 何もわかっちゃいないシャトワールに、困った声で説明する彼女はとても大変そうだ。



「シャトワールさま、ほら、もし万が一があったらわたしたち、エドモンドさまに何されちゃうかわからないですし、お願いですからやめてください~っ」

(──そうだ。その通りだ。大人しくしてくれ。シャトワール)


「おーっほっほっほっほ! では、どうしろというのかしら!? このエドモンド家嫡子・シャトワールに教えてくださいまし!」

(……普通に話せばいいだろ? 何言ってるんだ?)


「ふつうに、普通にお話してくださればっ。高笑いと名乗りを外して、ふつ~に!」



「…………」



 ウィッグの分厚い前髪の向こうで、あくまでも緩やかにシャトワールに語るミリアが新鮮で──エリックは少しばかり開いた口に力を込めていた。



 (……珍しいな、ミリアがとてもまともに見える)




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