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8-1「人身御供の報酬は」(4P)
伊達に接客業で「出口のない顧客の話」に付き合っていない。
その辺の耐久スキルはピカイチだ。
そもそも、普段何事に対しても正論をかまし、どちらかというと愚痴っぽいエリックがこぼし始めた「個人的な愚痴」など、標準装備に少しおまけがついたようなものである。
別に、自分に矛先が向いているわけでもない・優等生を被っているわけでもない・完全に「他人の悩みから出る愚痴」など、接客中のそれと何ら変わらない。むしろ、卑屈に悪態をつく彼こそ、彼女にとっては「おにーさん」だ。
体格における愚痴やら不満を、喧々と毒付くエリックに、ミリアの中の老人が(本性を見せ始めたな、うんうん、良いことですな)と菩薩顔で頷いていたのは、ここだけの秘密である。
────こうして。
ナチュラルにコンプレックスを刺激され、ぶつぶつ言いながらも、しぶしぶ・仕方なく・嫌々・女の衣装をまとって潜入した対価は『それなり』だった。




