8-1「人身御供の報酬は」(2P)
虚ろな瞳の自分にミリアが言う。
『……腰ほっそ……! なにこれ、えっ? ほそっ……!』
──その「羨望と驚愕を込めた言葉」は、瞬時にエリックをイラつかせた。
体系について言及するのはマナー違反──という文化はないし、ミリアに悪気がないのもわかっている。しかし。
男としては言われたくない。
そんな気持ちを知る由もなく、ミリアは
『いいなあ~~、腰回り、ほそーい……。いいなあ~、スタイルいい~……むかつく~、うわあ、ショック……、骨格と肉付きの違いがあるのわかるけど、でもそれでも羨ましい、いぃなぁあああああ……!!』
『それ。止めてくれないか? 君に言われたくない。不快になるんだけど?』
『えっ? なんで? いいじゃん細いの!』
『よくない。「細い」って。つまり頼りなく見えるってことだろ。そんなことを言われて男が喜ぶと思うか?』
『や、あの』
『俺は筋肉が付きにくいんだ、その分他人より鍛錬してる。……くそ!』
母親譲りの華奢な体型。
鍛錬してもつかない筋肉。
どうにもならないコンプレックスが、ミリアの前で愚痴と悪態という形で滑り出す。
彼の容姿は、スパイ・貴公子としてなら相手に大きな力を発揮するが、盟主として振舞う時は逆効果だ。鍛えてもなかなか大きくならぬ筋肉も、細めの骨格も舐められる一因となる。
戦時中ならそれをうまく利用し、だまし討ちに使えないこともないが、今は泰平の世。盟主の座を狙う古だぬきどもに揶揄われるタネでしかない。
彼を囲む古だぬきどもは言う。




