「……宝石化症候群《ジェムノ・シンドローム》?」
そんな状況に。ぐっと唇を巻き込み、拳に力を籠めるエリックの前。
スネークは一呼吸置くと、案内するように続きを語る。
「――――まれに、おりますでしょう? 「人体収集家の貴族様」が。希少人種の瞳・指の先・頭髪・完全体の骨……、部位になってしまえばグレーゾーンですから」
「つくづく悪趣味だ。反吐が出る……!」
「そんな彼らにとって、宝石化症候群で宝石化した人間は、それらの最高峰。「ヒトが限りなく美しく変貌したもの」だと、それはそれは高価に買い取られるのだとか」
「スネーク。なぜ黙っていた。形は変われど人身売買だ! そんなものは許されない!」
「噂話でしかなかったからです。確証が得られないまま、貴方に報告するわけにはいきませんでしたから。裏を取っている最中で、まさか……こんなに近くで、疑わしい事案が起こるなんて……」
「……くそ! 治す方法はないのか? 治療法があるはずだろう!」
声を、荒上げていた。
病の真否を疑う余地もなく。
今まで知らなかった自分が情けない。
先のこと・町のこと・国のことを考えなければならないが、今、知りたいのは、目の前で宝石化した相棒を助ける手段だ。
焦りを湛えて聞くエリックに、しかし、スネークは静かに首を振るのである。
「聞いたことがありません。宝石化症候群は奇病です。家族や友人が、運よく気付いて医者に連れ込んでも相手にされず、罹患した者はそのまま……暗礁に乗り上げているそうですよ」
「……!」
それらを思い描いて、喉を詰め拳を握った。
突如乱立する出来事に、動揺と憤りが走る。
わけのわからない病の報告、ミリアがそれに罹った可能性・欲に塗れた貴族の裏取引・それに加えて治療方法のない事実――。
どこかに感情をぶつけたい。
粗暴極まりない行為だが、壁でも殴りたくて仕方ない。
────――しかし。
頭の中でミリアが云うのだ。
『暴力はよくないし。叩くのよくない』
まるで隣から言われたような気がして。
素早く視線を滑らせるが、当然ミリアの姿は無く、代わりに────妙に気になる、はちみつ色の宝珠。
その、淡く優しい黄色が放つ、穏やかで快活な気配。
まるでそこに彼女が居るような暖かさ。
そんな魅力に、エリックの思考が失意に傾いた時。
スネークは、落ち着き払って続きを述べた。
「――しかし、「ただの一件」。宝石化した身内が戻ったという報告があるそうです。その方法は……」
「新妻である患者に、愛を囁き続けたそうですよ」




