表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
481/592

「……宝石化症候群《ジェムノ・シンドローム》?」




 そんな状況に。ぐっと唇を巻き込み、拳に力を籠めるエリックの前。

 スネークは一呼吸置くと、案内するように続きを語る。



「――――まれに、おりますでしょう? 「人体収集家の貴族様」が。希少人種の瞳・指の先・頭髪・完全体の骨……、部位になってしまえばグレーゾーンですから」

「つくづく悪趣味だ。反吐が出る……!」



「そんな彼らにとって、宝石化症候群ジェム・ノ・シンドロームで宝石化した人間は、それらの最高峰。「ヒトが限りなく美しく変貌したもの」だと、それはそれは高価に買い取られるのだとか」

「スネーク。なぜ黙っていた。形は変われど人身売買だ! そんなものは許されない!」



「噂話でしかなかったからです。確証が得られないまま、貴方に報告するわけにはいきませんでしたから。裏を取っている最中で、まさか……こんなに近くで、疑わしい事案が起こるなんて……」

「……くそ! 治す方法はないのか? 治療法があるはずだろう!」




 声を、荒上げていた。

 病の真否を疑う余地もなく。

 今まで知らなかった自分が情けない。




 先のこと・町のこと・国のことを考えなければならないが、今、知りたいのは、目の前で宝石化した相棒を助ける手段だ。



 焦りを湛えて聞くエリックに、しかし、スネークは静かに首を振るのである。 



「聞いたことがありません。宝石化症候群ジェム・ノ・シンドロームは奇病です。家族や友人が、運よく気付いて医者に連れ込んでも相手にされず、罹患した者はそのまま……暗礁に乗り上げているそうですよ」

「……!」

 



 それらを思い描いて、喉を詰め拳を握った。


 突如乱立する出来事に、動揺と憤りが走る。 

 わけのわからない病の報告、ミリアがそれに罹った可能性・欲に塗れた貴族の裏取引・それに加えて治療方法のない事実――。


 どこかに感情をぶつけたい。

 粗暴極まりない行為だが、壁でも殴りたくて仕方ない。


 ────――しかし。




 頭の中でミリアが云うのだ。



 『暴力はよくないし。叩くのよくない』



 

 まるで隣から言われたような気がして。

 素早く視線を滑らせるが、当然ミリアの姿は無く、代わりに────妙に気になる、はちみつ色の宝珠。





 その、淡く優しい黄色が放つ、穏やかで快活な気配。

 まるでそこに彼女が居るような暖かさ。



 そんな魅力に、エリックの思考が失意に傾いた時。

 スネークは、落ち着き払って続きを述べた。




「――しかし、「ただの一件」。宝石化した身内が戻ったという報告があるそうです。その方法は……」







「新妻である患者に、愛を囁き続けたそうですよ」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ