3-1「どいつもこいつも(4)」
「はっはっは。
…………閣下ぁ、お歳を重ねて先代に似てきましたなあ~!
その瞳! 目元! 雰囲気!
亡きオリバーさまの再来を彷彿とさせるその威厳!
まさに『オリオンの血』!
さっすが、我が国屈指の武器商人!
身震いがしますなあ!」
(────これだ)
ドミニクの言葉に、彼の中。
張り付けた薄い笑みの裏側で、何かが淀み、捻じれ・沈んだ。
会食の度
毎度毎度
言われるたびに 自覚する
逃げられぬ運命だと 突きつけられる
────『オリオンの血』。
腹の奥
ごろりと音を立てる重い何かを 笑いに変えて
エルヴィスは、少し高めの声を意識してドミニクに顔を向けると
「────……それは……
昔の話ですよ。
現在の取り扱いは魔具専門です。
……武器は……、父の時代で終わりですから」
「がっはっは! そうでありましたな!
お父上と初代オリオン様が、我が諸侯同盟に挙げた功績は計り知れぬものがありますからなあ!」
「…………有難うございます」
「エルヴィス様♡ レアは魔具も好きなんですの。
コレクションをご覧になりまして?」
「────……ああ、
それではまた、機会のある時に」
レアのすり寄った笑顔に微笑を浮かべ、ふと。
手元のナイフに映った自分の瞳に、彼の、動きが止まる。
突きつけられる遺伝子。
手元で光る刃から
まるで父がこちらを見ているかのような感覚を憶え
素早く 目を 逸らしていた
彼は、嫌いだった。
(……お前たちが欲しいのは、うちの金と地位だろう。オリオンの名があれば、国内で怖いものなどないからな? …………透けて見えるんだよ)
こうした付き合いが。
(どいつもこいつも、二言目には「オリオンの血」)
会うたびそっくりだと言われる
この
奈落を押し込めた様な瞳も
(裏で。
お前たちがなんて言ってるか、知らないとでも思っているのか? だとしたらおめでたいな?)
『所詮あそこは死の商人』
『何万人殺してきてるんだ』
『血にまみれた富』
『悪魔の末裔』
『女神の御許へなど行けるわけがない』
いくら努力・研鑽を重ねても付きまとう
『オリオンの家の子』
『血も涙もない悪魔の子!』
『逆おうものなら屋敷ごと焼かれる』
『戦争も知らない3代目が』
──────過去の呪い
(………………人なんて。
表面上笑っていても、肚の奥で何を考えているかわからない)
幼いころから突き付けられていた、人の本性。
腹の中身。
成人してから、さらに感じる──どす黒さ。
利用し
利用され
裏切り
そして────富を得る
そんな世界に 生きている
(────……信じられるのは 自分だけ)
エルヴィスは、皿の上の肉の塊にナイフを通し 淡々と口に運ぶ。
ああ
吐き気がする




