「「お前の口から、ミリアのことを聞きたくない」」(6P)
「彼女には頼みたいことがありましてねぇ……、先日から幾度か訪れているのですが、まさかまさか、いや、困りました」
「――お前が。あの従業員の妄言に乗じてからかっているようにしか思えないな。趣味の悪い演技は止めろ、スネーク」
昼下がりの縫製工房。
差し込む日差しが濃い影を作る中、エリックは「第一」と続けると、
「俺が最後にミリアに会ったのは二日前だ。その時の彼女はいつも通りで、特に出かけるとも、気にかかるようなことも口にしていなかった」
そう。記憶の中のミリアは普通だった。
居なくなる気配も見せなかった。
それが演技だとも、気遣いだとも思えない。「なぜなら」。
「……アルトヴィンガの一件以来、彼女は行く場所の共有をしてくれる。そのミリアが、俺に何も言わずにいなくなるわけがない」
「なるほど信頼しているのですねぇ。 しかし、どうでしょう? もし彼女が──それらを言うことすらできなかった……としたら?」
「は?」
眉根を寄せ、怪訝を研ぐエリックに、糸目のスネークはじっとりとした声で放った。
「……報告です。街で、とある病が流行り始めているそうです」
確固たる信頼はスネークの一言で揺れ始める。
疑念を纏いながら、ぐるり、ぐるり、ゆらゆらと。
※ ※
「宝石化症候群?」




