「ミリアが居なくなった?」(1P)
※イベントで出した電子書籍のサンプルです
※時間軸は大体この辺
※あくまでも「サンプル」です
「──は? ミリアが居なくなった?」
「ぴえええええええええ! そうなんですう!」
その日、エリック・マーティンに疑心が走った。
相棒のミリア・リリ・マキシマムを訪ね、総合服飾工房ビスティーの扉をくぐった直後の話である。
開口一番、ビスティーの縫製職人・『とにかく叫ぶピィ』にそう言われ、一瞬。驚きと同時、『盟主兼スパイ・エリック』の中で渦巻いたのは不信だった。
なにしろこの、目の前でぴえええ! と泣きまくる、縫製妖精のピィは、なんでも事態を大きく報告する質にある。
以前も「ミリアが居なくなった」と騒ぎ立て、それを真に受けてしまい大混乱に陥った。
それでも何とか居場所を聞き出そうとしたものの、ピィの受け答えが壊滅的で会話にもならなかったのは軽いトラウマであった。
それらを踏まえて、今。
ピィとはいまだに主な交流もないし、苦手意識は拭えぬままだが、もう騙されない。
(……またか? どうせ買い物にでも行ってるんだろ?)
脳の中、ご機嫌なミリアがそのあたりでトマトを物色しているところを想像しながら、エリックはピィの泣き言を呆れで一蹴した。
最初こそ使い捨てるだけのつもりだったが、ミリア・リリ・マキシマムという女性はエリックの相棒である。彼女が何も言わずいなくなるわけがない。
「──へえ。今度はどこに行ったんだろうな? ドライトマトの在庫が切れたとか?」
「ぴえええ! 違うんですう!」
「……何が『違う』んだよ。……待てば帰ってくるんだろ? 君たちの誇張報告はもう効かないからな」
ピィのそれを歯牙にもかけず。
エリックは呆れ眼で店内を突っ切った。
ミリアはいないがビスティーは匂いも景色もいつも通りだ。
彼女が居ないのは物足りないが、待てばミリアは現れるだろう。
そんな、いつもの光景に心を緩めながらも、瞳を滑らせるカウンターの上。
作りかけのコサージュに、お直し待ちの衣装たち……の隅に、ころんと転がるそれを見つけて声を上げた。
「────なんだこれ。……宝石?」
目に飛び込んできた鮮やかな黄色の宝珠に目を見開く。
こんなところにこんなものが置かれているのは見たことがない。
優しい黄色のその粒は、親指の爪ほどの大きさをしており、エリック──いや、盟主エルヴィスの目から見ても、見事な宝珠であった。
(……オーナーの忘れ物か?)
じっと見つめて、一呼吸。
エリックは誘われるように手を伸ばし──




