7-22 「キミの気持ち」(4P)
「…………はあ……それなんだよな……
君、まるでわかってないだろ。
そういう問題じゃ無いんだけど?」
「……う……!? お説教タイムきたね……!? 『生物学的な力量の差』とか『体つきの違い』とか、そういうことを言おうとしてるよね……!?」
「それもあるけれど、この場合は違うな。君が『解ってくれ』というのなら、俺の気持ちもわかってくれないか?」
「『俺の気持ち』?」
オウム返しに聞き返した。
身構えた小言攻撃ではないらしい。
「んむっ?」と目を向ける自分の前、エリックは数秒間を置き、そして語るのである。
「──『女に対して怒鳴る・声を荒上げたあとの罪悪感および自責』・『本来ならば守らねばならない相手に牙を向ける抵抗と葛藤・それに伴う自己』──」
「──────簡潔にまとめてくれ」
「──『俺は君に怒りたくない。感情をぶつけたくもない』」
「マジでまとめてくれるとは思いませんでした……」
流れる会話を区切って、簡潔に述べたエリックに、ミリアは身を竦め早口で答えた。
もともと優秀な男であるのは解っちゃいたが、あっさりとこちらに合わせてきた彼にぐうの音も出ない。
これだけ合わせられるのに、これらに対して抵抗するということは、それすなわち無茶ぶりさせているということだ。
(──うぅん、人間関係むっずかしい……!)
胸の中(やっべ滅茶苦茶言ったかもしんない)を咀嚼する。思わず空を仰ぎたくなる衝動を抑える彼女の前、しかしエリックは、落ち着いた息を吐き出すと、
「──ただ『君の気持ちは受け取った』。俺の意地で君を困らせたり、泣かせたくないしな。善処する」
「……」
ノースブルクの朝。
自分の家。
テーブルの向こうの彼。
彼はこういう優しさを持っている。
そんな彼に、ミリアはぽそりと、上目遣いで声を投げていた。




