7-22 「キミの気持ち」(3P)
「──はは、……君は、こんなこと言われても困るだろうけれど。
俺は今、君と共にいる時間に、広がりを感じているんだ。
『世界が広がっていく』……とでも言うのかな、うまく言えないんだけど」
「…………『世界が広がる』……魔法のべんきょうとか?」
「ああ、まあ……それもそうだけど、そこじゃなくてさ。
……暗くて見えていなかった足元に、少しずつ火が灯り、周りが見えるようになっていく……というか。自分の周りに気づける……というか。
────『見ていなかっただけなんだと、気付かされる』……
……そんな感じ……かな」
「『そんな感じ』…………おにーさんにしては、言葉があやふやだね?」
「────うーん。
考えてることを口にするって、難しいよな……
推論を口にするのとはわけが違う。
さっきの君じゃないけど、うまく伝える術が欲しいと考えているよ」
言いながら、うなじをガリガリと掻くエリックは、リーダーでも何でもなく。ただの藻掻いている青年に見えて、くすりと頬を緩めた。
それに、エリックも笑うのだ。
参った様子で、白旗を上げるように肩をすくめて視線を寄越すと、
「──と、言うか……、これでは『喧嘩をしよう』の答えになってないよな。弁は立つ方だと自負していたんだけど、カタ無しもいいところだ」
「ふふ、おにーさん、話がとっちらかってる」
「……だから……『カタナシ』だよ、君の前では。情けなくて笑えてくる」
言いながら、今度はガリガリと頭を掻いた。
その顔はしかめっ面だが、しかし『いい色を帯びていて』。心に安らぎが広がるミリアの前で、エリックはそのまま口元を覆い、
「──しかし、毎度のことながら君が言うことは『難題』だな。
『喧嘩しよう』なんて、この歳になってまさかそんな青臭いこと言われるとは思いもしなかったんだけど?」
「──なんて言いつつ、いい顔してるじゃん?
”俺がこんなことを言うなんて”ってやつ?」
「ハズレ。
──”少し恥ずかしいけど、出してみようか”が正解。
抵抗はあるけどね。
ずっと溜めてきたものを『出せ』と言われても……な。
本当に制御が効かなくなりそうで。
……それに、君は女性だし」
「女の前に相棒です」
「────……」
どうにもそこにこだわるエリックに、はっきりと言った瞬間。エリックの顔に、いつもの『呆れと怪訝』が戻ってきて、ミリアは瞬時に顔を固めた。
瞬間「あっ」と声が漏れる。
山のような文言を想定して構えるミリアの前。
『いつもの表情』を宿したエリックは深く深く息を吐きつつ、首を振りながら言うのである。




