7-22「言いたいこと、ある」(5P)
「でも、あのー、この前みたいなの、困る」
「この前?」
「『コルトの時』。
……怒ってたけど笑ったよね?
……あれ、怖い。困る」
「…………」
────言われ、思い出すのは『あの瞬間』。
『自身の中、湧き出たただならぬ苛立ち』を
『ぶつけてはならぬ』と
奥底まで落としたあの日
ミリアから向けられた困惑と動揺の眼差しを、笑顔の盾で返したあの日だ。
(────…………)
ミリアの顔が蘇る。
戸惑いから驚きへ、どぎまぎから落ち着きへ。
その時彼女が抱いた感情を知り、ちくんと胸が痛む中。
ミリアは依然、困った表情で口を開くと、
「なら怒鳴ってくれた方が全然いい。
ううん、いきなり怒鳴られるのは嫌だけど、ああやって笑われるとどうしていいかわかんなくなる。どぎまぎする。……『見捨てられたかな』とか、そういうことも考える。ざわざわする……」
俯き、ぐっと胸に拳を当てる彼女。
その不安そうな様子に言葉もないエリックの前、彼女は真剣なまなざしで云うのだ。
「悪かったならこっちも治す。ごめんなさいってするけど、でもあれだとこっちも何が悪かったのか、何が嫌だったのかわからなくて困る。
────それに」
堰を切ったように述べて、ひとつ。
思い詰めたように視線を惑わせ、ひとつ。
「……そのままじゃ割れる……
…………心配になる…………」
「…………」
ぽそりと、遠慮がちに、言いにくそうに述べるミリアに、エリックは、一瞬の間を置き、そして問いかけた。




