7-22 「言いたいこと、ある」(4P)
「『君のせいだ』と言うわけではないけれど、そもそも、あの口論も、どうしてあそこまで口が止まらなかったのかわからない。
……結果、収まるところに収まったから良かったが、……まったく、何をやってるんだろうな、俺は」
「…………やっぱり、」
ぽそりとした──しかし、なにかを肯定するような呟きに阻まれて、エリックは自嘲気味に流れていた視線を止めた。導かれるように見つめた視界の中で、ミリアははちみつ色の眼差しをまっすぐこちらに向けると
「────『努力』。
…………そういう人」
その確信めいた声に心が動いた。
心が華やぐ。
先を聞きたいと思考が求める前に、言葉が口を突いて出る。
「──『努力』?」
「そうやって、努力してきたんだろうなってー。
思った。」
「…………」
なぜか唇に力がこもる。
胸の奥に広がる感覚は、緊張とも、高揚とも表せない。
(…………ああ、これで二度目だ)
ミリアが努力を認めてくれたのは、これで二度目だ。
欲しかった言葉に暖かさがこみ上げ、自然と背が伸びる。
次の言葉を待ち詫びる自分の視界の中で、彼女はまっすぐ口を開くと、
「お屋敷勤めじゃん?
直接関係なくても、旦那さま経由で、政治とかそういうのも絡んでくるんでしょ? 無礼なことされても、我慢しなきゃいけない時とか、パンチしたいときとか。
あるよ。
生きてたら『ある』。
他にもいろいろ、見えてくるから。
おにーさんが頑張って、戦って、努力してる人なのはよくわかってるつもり。
…………なんだけど…………」
「……『だけど』?」
意味深に途切れた言葉の先に、彼女の本音があるような気がして繰り返した。
鼓動が音を立てる。『感情に振り回されぬよう』と口にしてきたのに、ミリアが落とした陰りに心が揺れる。
嫌な感覚に包まれる中、ミリアは遠慮と迷いを乗せた瞳をちらり見つめ、言った。




