7-22 「言いたいこと、ある」(3P)
「確かに『感情に任せて怒鳴りまくるのは良くない』。
でも、おにーさんは溜めすぎなの」
「…………。ここだけの話、しょっちゅう苛ついてると思うけど」
「知ってる。静かに怒ってるよね、よく」
少しの間。
ぽろりと出たのは、怪訝と開き直りだった。
軽い相槌に息がこぼれる。
ここで下手に取り繕っても意味がない──と計算したわけではなく、ただ、素直に零れ落ちたそれに辟易を乗せて、彼は続ける。溜息に、諦めも加えて。
「…………”どうしても”な。もともとそれほど寛容な人間じゃないんだよ、俺は。口にしないだけで腹の中では苦言ばかりだしな」
「……それはみんな同じだと思う」
「良いことではないのは解っている。しかし、『そういう威圧』が……、俺には必要なんだ」
「…………」
……理想を言うのなら、感情に振り回されないことが最も理想だ。
しかし生きていれば、どうしてもそれが付きまとう。
そんな世界に生きている。
「──『威圧を放ち、相手を牽制すること』と、『怒りや激情をもとに相手と対峙する』のはわけが違う。
まずこちらが冷静さを欠いてはならない。
感情に呑まれ、怒鳴り散らしても、良い結果など出せはしない。
だから、常日頃、怒りや激情を中心とした感情は出さないようにしてきた。
特に、公務では邪魔でしかない。
…………だから、出さぬよう心がけてきたんだ」
──”隙を見せぬために。作らぬために”。
「いくら苛ついても、相手がどれだけ声をあげても、心は静かにね。
感情に呑まれてしまったら、そこで終わりだ。
それは、俺にとって死活問題だった」
述べる声に意思が籠る。
握る拳に力が入る。
思い出しつつ語る言葉は
見てきた屑どもを集約し
重い鉛となる
「『醜悪な屑・欲にまみれた屑、過度な羨望・嫉妬。その種さえ与えてやるつもりはない』と。
だから、常々。
落ち着かせ、平静であることを保ってきていた……んだけど……」
──最後は、尻つぼみに語気を弱めた。
ためらいがちの視界の端で、静かに待っている様子の彼女に、続きは、漏れ落ちた。
「──最近、バランスが崩れたというか」
ぽろりぽろり。
理解を求めて正直に、迷いを宿したまま出るそれを、無理に止めようとは思えなかった。




