7-22 「言いたいこと、ある」(1P)
「おにーさんに言いたいこと、ある」
「────……」
──それは、落ち着きかけた心をぐっと揺さぶった。
今までに聞いたことのない、思い詰めたようなトーンに、緊張が走る。
話の流れからして、このあとミリアの口から滑り出す事柄が『お気楽のんきなものではない』ことは確かだ。むしろ、ミリアのこの『改まった様子』と、瞳に宿る決意のような色から推察されるのは、真剣なものだろう。
それは、『苦言か・決別』か。
それらを予想して、解け緩んだ心にもう一度。
緊張を走らせながら、エリックは、暗く青い眼差しを向けると、真摯を纏って問いを投げる。
「…………話? どうした」
「……うーん、あのね?
言わなすぎなんだよね、ためすぎなの。
それ、困る」
「……?」
少々間延びした声で言われて言葉に詰まった。
ミリアの言いたいことが汲み取れない。
先ほどまでのヘンリーとの話は『仕事を任せるかどうか』の話であったし、ミリアに対して口数が少ない自覚はない。
むしろ、他者と居るときと比べて、毒舌になるほどしゃべっていると自覚のある彼は、すぐに。不可解に眉を染めてミリアを見ると、
「……いや、言ってると思うけど」
「あー。違うの。
おにーさん、自分の大事なところ、言わないの。
この前の喧嘩、覚えてる?」
(……喧嘩?)
あくまでも平坦に、柔らかに言われて思い出す。
アルトヴィンガの一件だ。
ミリアと『街のイメージ』のすれ違いで言い合いになった。
アルトヴィンガを『爛れた街だ』という印象のみでミリアを責め立てた一件が脳裏を駆け巡り、瞬時に気まずさを滲ませるエリックを向かいに、ミリアは言う。
手元で空になったミルクグラスを視野にも入れず、こちらをまっすぐと見つめながら、眉を下げ・首をかしげて。




