7-21「信用してない」(6P)
日が差す一室で、エリックは言葉を無くしていた。
核を突きながらも、優しく手を引き抜け出せたような。
痛みも苦しみも伴うが、それでも周りがぐんと開けたような。
複雑ながらも、心地いい感覚に言葉が出ななかった。
気持ちが、思考が変わっていく。
『任せてみようか』と変わりゆく。
今まで何度も『なんでも言ってくださいね』と言われてきた。
それを『ランベルトの者だ』と線を引いてきた。
その気遣いを、声かけを何度も袖にしてきた。
それは意固地でもなんでもなく、自領を統治する責任であり責務だと思っていた。
しかし。
(────あいつ……そうか……)
エリックの頭の中。
初対面であるはずのミリアにこぼしているヘンリーの姿が、浮かび・消えていく。
舞踏会で、諸侯同盟円卓会議で、ことあるごとに声をかけてきた彼の姿が、空になった皿に映る。
その『気遣いながらも少しばかり寂しいような、傷を受けたような顔』が脳裏によぎり──湧き出た罪悪感に、眉を下げた。
──ああ、痛い。
ヘンリーの身になり、胸が痛い。
(────俺は……意固地になっていたのかもしれない……)
言われるまで気づかなかったことにも反省だ。それよりなにより『何度も言ってくれていたのに袖にしてきた』事実に反省が滲み出る。
しかし、それと同時に感じている暖かさに、ほんの少し。
目尻に違和感を覚え視線を逃した先、食卓の向こう。
光差し込む世界で微笑むミリアの眼差しは、優しく、穏やかで──
そんな彼女に、エリックがふとはにかんだ時────
ミリアは、
柔らかな頬杖に笑顔を乗せたまま
さらににっこり、
すべてを許してくれそうな微笑みを浮かべると、
「────で、ここまでは”綺麗なやつ”で。」
(…………ん?)




