7-21「信用してない」(3P)
「『仕事、任せて欲しい』っていってた」
「…………『仕事』?」
騒がしい心に、一拍。
ぽこんと返ってきた言葉に目を見開き繰り返す。
(……し、しごと?)
まるで予想外だ。
軽く投げられたトーンに戸惑う。
駆け巡っていた物騒な予想は頭の外に飛んで行き、脳を支配するのは『飲み込めない混乱』だ。
不信と信頼の間でぐらついていた心の行き場に困る。
言葉の意味は解るはずなのに理解ができない。
そんなエリックに、ミリアはひとつ、息をつくと、はちみつ色の瞳で述べる。
「おにーさん、
『なんでもできるから、抱え込んでる』って。
『もっと仕事任せて欲しい』・『やりたいのに』って。
そう言ってた」
ぽん、ぽん、と平坦に。
余計な感情は込められておらず、端的に。
本当にただ、『そう言ってたのを言ってるだけ』。
しかしその口調には呆れ混じりの苦笑が滲んでおり、それが、ヘンリーの苦笑いと重なった。
「『お役に立ちたいのに』~って。
そう言ってた。
『リーダーのこと考えてるのになぁ』って。そんな感じで」
「…………」
「だから、いい仲間なんだなと思ったの。
でも、おにーさんはヘンリーさんのこと困ったように話すから、嫌いなのかなって。けれど、違うんだろうなって判断した。それが『信用してない?』という疑問になったというわけ」
「…………」
言われて振り返り眉を寄せた。
『困っていた』のは内省と恥ずかしさのせいだが、そこをミリアは誤解したようだ。瞬時に、キャロライン皇女の『侍女が怖がっていたわ』が蘇る。
微妙な自省と、ヘンリーへの安堵が内側を並走する中。ミリアは肩をすくめて笑うのだ。
「──で。まあ、キミを見てると、ヘンリーさんの言い分もわかるな~と思っちゃって」
”────ふうっ”とひとつ。
呆れ混じりのため息を、理解で覆うと。
彼女は何かを思い描くように宙を仰ぎ、うんうん頷きながら微笑み語る。




