7-21「信用してない」(1P)
「ヘンリーさんのこと、嫌い?」
「…………え…………」
ボルドー通り、ティキンコロニ301。
柔らかな日差しが差し込むアパートメントの一室で、食卓を挟んでエリックは、貫かれたように一瞬・動けなかった。
しかし、それも刹那に我に返ると、動揺を散らすように素早く瞳を迷わせ、彼女に聞く。
「──どうしてそう思った?」
「さっきから眉間の皺やばいから」
返ってきたのは、答えになっていないような答えだ。
確かに眉間を寄せてはいるし、ヘンリーのことも『流れ出るようにフォローした』が、ミリアが『嫌いなのか』と思うほどのことは言っていないはずである。
────瞬時。
口に出したことを振り返る彼。
────しかし思い当たらない。ヘンリーの名を聞いてから、目くるめく自己嫌悪と警戒に包まれはしたが、彼の悪口などを口にした記憶はない。
(……そう思われても仕方ないことを言った……か?
いや、そこまで態度には出していなかったはずだが、)
と思い悩むエリックを前に
ミリアはというと、”うーん”と小さく唸り空を仰いでぽつぽつと、
「でも、
『嫌い』……っていうのは変かー。
『嫌い』……じゃなくて、うーん……
『頼れない』『信用してない』、こんな感じがしっくりくるかな、うん」
「──────待ってくれ」




