7-20「ちょっと待て ヘンリーだなんて聞いてない」(4P)
「──ミリア。無いとは思うが」
「うん?」
「…………なにかされなかったか」
「──”なにか”」
真剣と緊張を宿した瞳で問うエリックに、ミリアはただただソレを繰り返していた。
あたまの中でぐるりと『なにか』を検索するが──エリックの言わんとすることがいまいち絞り切れずに考える。
(──なにか、とは? そういうことを言いたいのだろーか?)
と、瞳をくるりと回し、そっと手を伸ばすのはミルクのグラス。
何せミリアは、ヘンリーという名前の男性に警戒されていたのだ。
自室に招いて寝床を貸したにもかかわらず、警戒されるという不可解な局面に放り込まれていた彼女にとって、『なにか』もクソもあったものでないのだが──
エリックの予測は違うようである。
ミルクグラスを片手に、こくんと飲み込むミリアの前で、エリックは言いにくそうに眉をひそめ、言葉を選ぶように瞳を迷わせると、
「ヘンリーと、ベイダー隊には感謝する。
が、その……
こんなことを言うのもなんだけど。
ヘンリーという男は、少々オンナ癖が悪くてな。
助けてもらって言えることでは無いが、君に何かしたのでは無いかと気になって」
「あ〜……。たしかに、チャラ……人当たりのいいお兄さんだよね~」
言われて、軽く相槌を打った。
いまだ険しい顔つきのエリックが言わんとすることを理解したミリアは、煮込んだキャベツと小さな鶏肉を掬い上げて彼に言う。




