7-20「ちょっと待て ヘンリーだなんて聞いてない」(3P)
「────君に迷惑をかけたことと、あいつに痴態を晒したのは十分にわかった……すまなかった。……………………………………………………………聞くに耐えない」
「すっごく驚いてた! 『リーダー!!? 何やってるんですか!』って。勢いにわたしも驚いたけど、連れてた筋肉むきむきのお兄さんたちが”ひょい”って抱えて運んでくれてさあ〜!」
「────”筋肉”……、ああ……」
(ランベルトの壁・ベイダー隊だ……!
彼らにまで痴態を見せたのか……っ!)
聞いて、さらにぐらつく上半身。反射的に腕が天板を押し、体を支えていた。
ランベルト侯爵の精鋭「ベイダー隊」に抱えられて運ばれたところを想像すると眩暈を覚えるが、よくよく考えたら割と細めのヘンリーと、ミリアだけで自分の体を運べるわけもない。
ヒトの体は、ヒトが想像するよりもずっと重い。
軍事演習で意識をなくした仲間の運搬も行う彼は、動かなくなった人体の重さもよくわかっていた。
────しかし。
吹き荒れる──恥ずかしさと憤りは、容易に抑えられるものではない。
(……助かったが!
……彼らまで引き連れて、一体なにやってたんだ、ヘンリー……!)
思わず関係のないところまで毒を吐く。
ストレスを飛散させるように、手が行くのは自身の生え際。
指で梳くように髪をかき上げ、そのまま頭を押さえる。
いっそ殺してくれという気分だった。
まさか臣下のヘンリーとその周囲まで巻き込んだなんて痴態もいいところだ。しかし同時に、身内で良かったという念も吹き出してくる。
仮にもし、手助けしてくれたのが「反オリオン派勢力の刺客」だった場合、倒れたのがエルヴィスだとわかった瞬間、自分は捕らえられ、ミリアは殺されていたかもしれない。
ミリアは身ぐるみを剥がされ、精神的・肉体的侮辱も受けていたかもしれない。自分だけならまだしも、本来一般人のミリアをそんな形で巻き込んだとしたら──死んでも償いきれない。
「────っ……!」
────それらを想像し、ゾッとした感覚と自責が混じり合うエルヴィスの中。次に振って湧いて出たのは、”別の懸念”だった。
──アパートメントの一室。
意識のなかった自分。
ミリアという年頃の女性と、ヘンリーという『女たらし』。
その、揃いも揃った条件に思わずピタリと身を固め、ぐっと右手で拳を作ると──問い、かけるのである。




