7-19「ノースブルクの朝食から」(9P)
短く問われて首を振った。
安心したように、クロワッサンにナッツクリームを塗るエリックに目を送る。
ぱりぱり、かりっと音を立てるエリックは、本当に、普通の男性だ。
(────ヘンリーさん、なんであんなこと言ったんだろ?)
『表情動かなくてやりにくいでしょ?』
(おいしそーにご飯食べてるけど。ちょっと抜けてる感じさえあるけど。なんか寝ぐせあるし。ニンジン好きなのなんとなくわかるし。)
ちらりと見ては疑問に思う。
そしてその疑問は、比較対象を探すのだ。
(……スネークさんのほうがよっぽど、やりにくいけどなあ。
ニコニコのまま動かないし。
あの表情から感情読み取れないし……接客しづらいタイプ……)
と、ミルクを喉の奥に落とし、キャベツをスプーンで掬い上げる彼女。
くたくたとろんとしたキャベツを含み、舌で潰しながら考える。
(────それに比べると、おにーさんはやりやすい方なんだよね。ずけずけ言うし、いらないものは要らないってバッサリするし、好みもわかりやすそう。接客難易度はおにーさんのほうが楽そう〜)
柔らかなキャベツの奥に染みた、鶏の旨みを舌の上で転がし”こくん”。安定のおいしさに頬を抑えるミリアに、次なる話題はエリックから投げられたのだ。
「…………それにしても、ミリア」
「んっ?」
「聞く機会を伺っていたんだけど、俺が倒れた後、君は一体どうしたんだ?」
今までの彼とは一転。
悩まし気のそれから切り替えたように、エリックの表情には険しさが宿っていた。
おおかた、その時の状況と自分がかけた迷惑などを想像し深刻に捉えているのだろう。それがありありと取れる顔つきで、彼は言葉を続けるのである。
「ミルキーパルクからここまで、君一人の力では俺を運ぶことなんてできないだろう? なにをどうしたのかはわからないが、とにかく君に怪我がなくて良かったと思うと同時に……誰か手助けしてくれた人間がいるのなら、探し出して礼を」
「あ、だいじょーぶ。知ってる人だから」
「…………え。」
彼の言葉を、みなまで言わせず遮って。
ミリアは、目を丸め食い入るようにこちらを見つめる彼に、軽い口調で事実を告げる。
「おにーさんが知ってる人だから、大丈夫。
ヘンリーさん。
知り合いにいるでしょ、ヘンリーって名前のおにーさん。
あの人」
「──────は。」
「────待て。 ”ヘンリー”!?」




