7-19「ノースブルクの朝食から」(8P)
「…………気になっていたんだよな。歌劇役者でもないのに、どこからそんな宗教的で役者めいた動作が出てくるのか、疑問でさ」
「けっこー失礼だよね、知ってるけど」
「…………なるほどね。合点がいった」
「…………ほんっとズケっというよね? いいけどね? 別にそこまで自国への愛国心強いわけじゃないし?」
「…………怒った?」
「ううん、全然。おにーさんがそういう人だって知ってるし」
「…………」
──”若干”。少々。
こちらを伺うように問いかけるエリックに、ミリアは真顔で首を振ってみせたが、しかしエリックは気まずそうに口を噤んでしまった。
(──いや別にまったくこれっぽっちも気にしてないけど──)と、ミリアが喉のそこまで用意した、その時。
「いや、悪かった。
気を悪くしたよな?
あー──、……そう、そうなんだよな」
「?」
返ってきた、心底悩んでいるような物言いに首を傾げた。
テーブルを挟んで向かい側。エリックはその表情に悩みと難しさを浮かべ、珍しく項垂れ頭を抱えている。
そんな様子に、ミリアはそのまま目だけを向けて、待った。
エリックがこんなふうに内部葛藤を口に出すなんて、今まで見たことがなかったからだ。
その珍しい様子に目を丸めて黙るミリアの前。
彼は、気まずそうに目だけを上げると、口元を覆い隠しながら言う。
「……たまに、毒舌になるというか。
普段気を遣っているつもりなんだけど、気が緩んだり、イラついたりするとどうも……な。毒が隠せなくなるらしくて」
(知ってる。最初からそうだったからよく知ってる)
「……この前も、その……仕事でさ。
喧嘩の仲裁に入ったはいいものの、仲裁するつもりがさらに相手を怒らせてしまって……結果予定が押してしまった……ってことがあったんだよな」
(あ。なんか想像つく。すごいわかる)
「……今、思い返して反省してるんだ。どうしてうまく回せなかったんだろう」
そう語るエリックは、見るからに『困った・参った』を映し出しており、
(…………やっぱ、表情が乏しいってことないと思うけど……?)
ミリアは、はちみつ色の瞳で疑問を転がした。
ヘンリーの言う「エリック」と、自分の見ている「彼」がいまいちかみ合わない。
それは、エリックが立場をわきまえて、リーダーとして振舞っているからなのかもしれないが、今。ミリアの目に映る彼は仕事に悩むただの青年で、デキルオーラもリーダーの気迫も感じられない。
「────ミリア?
…………俺の顔に何かついてる?」
「ううん、ついてない」
「────そう?」




