7-19「ノースブルクの朝食から」(6P)
「……ってことは、お祈りも同じ?」
「…………まあ。神殿や聖堂・または女神の使いである大司教猊下を通して祈りを捧げる時は、両手を胸に当てるとともに恭しく頭を垂れ膝を着き、敬愛を示すよ。当然の敬意だ」
「ほう……」
「────まあ、…………貴族や爵位を持つ相手への対応や、忠誠を示す際の所作は、また違うけどな」
(────あ。戻った。このめんどくさそうな顔は、『おにーさん』。いつもの『おにーさん』だ)
威厳から当然へ。
当然から辟易へ。
最後は、うんざりとした自嘲気味な口調で述べる彼。先ほどまでの穏やかな雰囲気は薄くなり、今エリックが纏っているのは嫌気と自嘲だ。
──その、滑らかな変移を前に。
ハニーブラウンの視線をきょろりと惑わせ、ミリアはミルクをひとくち口に含んで呟いた。
(…………なんか、モードあるよね。
『お屋敷モードとおにーさんモード』って感じ?
ふんふんなるほど理解した。)
見えている範囲で情報分析。
彼女もそれなりに考えるが、さすがに今見えている情報だけで彼の正体に気づくことは不可能なようである。
しかし、それらの情報は少しずつだが確実に、彼の印象として積み重なっていくのだ。
(────うんと。『お屋敷モード』は。
ちょっとおにーさんじゃないみたいだな~思うけど、それっておにーさんが『場所や立場をわきまえられる人』ってことで。ちゃんと仕事できる人ってことだし。
やっぱりこの人、『努力の人』。
ちゃんとしてるひと)
こくん、とひとつ。
もうひと口、喉の奥へ。
(……まあ、お屋敷勤めなんだから当然なのかも。
それぐらいできなきゃっていうか。
旦那さま、厳しそうだし。
そうやって、『使い分けて頑張ってる人』)
スープに沈んだ最後のトリを口に運ぶエリックの前。
喉から落としたミルクが、静かに胃の中へ落ちていく。
(ヒトって、裏とか表があって、『人によって態度変えるとか信じられない!』って拒否する人も居るけど。そういうので、裏切られることもあるんだけど。社会人なら使い分けできて当然で、──だから──、うん)
────信じていいよと勘が言う。
見えているものでしかわからないが、『その切り替えは有りだ』と無意識が云う。
そして同時に、負けず嫌いな彼女がひょっこり顔を出すのだ。




