7-19「ノースブルクの朝食から」(3P)
簡素なランチョンマットに
ベーカリーペコのクロワッサンとベーグル
ココット皿に盛られたベリージャムと、クリームチーズ。
ミルク瓶に注がれたヘイムミルク。
ほかほかと湯気を立たせながら、カウンターに置かれたキャベツのスープを運んで、少し歪んだスプーンをひとつずつ。
そして彼らは席につく。
エリックがテーブルに並んだ庶民の食卓に目を見張る中、ミリアはおもむろに祈るように両手を組み合わせ、空を仰ぎ──述べた。
「────大いなる父よ マジェラの神よ
我ら流るる魔道の血よ
命を 糧とし血肉とし
我らが罪を赦したまえ
我らが路を示したまえ
────全ては魔力の導の元に」
息をするように始まったそれに、わずかに目を見開いたのはエリックだ。
テーブルの上に置いた手もそのまま、彼女に目をやり問いかける。
「…………それは?」
「あ、マジェラの『食べる前のお祈り』かな。
外ではやらないけど、家ではね」
「────へえ……」
「こっちもそういうのある?」
「……ああ、もちろん」
問い返されて、エリックは小さく笑い両手を胸に置いた。
食事前の所作に心を静める片隅で、垣間見えた文化の違いに少々恥じらいを滲ませながら、胸に手を当て目を閉じる。女神に贈るのは感謝の意。
「────『女神よ 大地の齎す恵みに 感謝と祈りを捧げます』」
「…………それだけ?」
「そうだな、君のところに比べるとシンプルだな」
「────ふう〜ん……」
少々恥ずかし気に笑うエリックに、ミリアはしげしげと頷いた。
胸の内で(やっぱ、挨拶も違うんだ)と呟いて。
そしてそのまま、流れるようにスプーンを手に取り、一口二口。
一晩おいて味のしみ込んだスープを口に運ぶと、ニンジンを口に入れるエリックに、伺うように声をかける。




