7-18「こんなことを言ったら君は俺を軽蔑するかもしれないけれど。昨晩のことは、本当に記憶がなくて……、君にあんなことをしておいてどの口が言うんだという話だが、その、」(7P)
こっそりと。
焦ってることを「真面目」で隠して。
「真剣に考えてますよ」空気を醸し出し、「寝ぼけた自分がこぼした「あんなこと」に当たりそうなことを、頭の中で並びたてて────
(──あ)
「たぶん、それ、ねぞうの話だとおもう。」
「──寝相?」
思いついたことを口に出した。
オウム返しに繰り返したエリックの顔が上がる。
それに応えるように、ミリアはひとつ頷き言葉を続けた。
「うん。
昨日、おにーさん倒れました。
うちが近かったからなんとか運んで寝かしてたんだけど、夕方になっても夜になっても起きないんだもん。うち、ベッドひとつしかないし、寝れるようなソファーもカウチもないから、寝るとこなくて困って、でも「自分のベッドだし」ってことで寝たんだけど」
「……うん? …………うん」
一瞬、エリックが引っかかったような顔をするが、それを気にも留めずにミリアは酸素を吸い込むと、
「狭いし狭いし、ブランケット半分もかぶれないし落ち着かないしで、なかなか眠れなくて。それでもやっと眠気が来たかな〜って頃に、足が「どすん。」。脇腹にズドンってきて、起きた。足おもい。重いから。足」
「…………」
「流石にイラッとして蹴飛ばしてやろーかと思ったんだけど、おにーさん病人だし、……「病人蹴飛ばして床で寝かすのも人としてどうなの?」って思ってね? 「今日だけだぞ」って多めに見てあげたミリアさんは、奥の方に入って眠ることにしたんだけど、今度はブランケットが”するするする~~”と回収されていくわけです。おにーさんの寝返りと一緒に。寒くて起きた」
「…………」
語るミリアのその先で、エリックの表情がみるみると「もったいぶられた苛立ち」から「言い表せぬ気まずさを纏った納得」へ変わりゆく。
その彫刻のように整った顔に(……言葉にならない)を封じ込め黙る彼に、ミリアは「はぁ、」とため息交じりに声を投げる。




